Ver.6/第8話

「前々から知ってはいたけど、オレ、自信失いそう」

 これといって見せ場も作れず終わったモンスターハウスでの激闘が終わり、チップは項垂れた。

 とはいえ、本気で落ち込んでいるわけではない。

 このメンバーの中で、一番Greenhorn-onlineをやり込んでいる自負はあるが、そういうゲームではないことを理解しているからである。

 むしろ、だからこそ、やりがいを感じていた。

「ま、まあ、チップ君の動きも、さすがだったわよ? テスタプラスさんほどじゃないにしても、視野は広いし、指示も的確だし」

 ラキアも、マカリナの〈DCG〉には慣れていても、ハルマとモカの規格外の戦力に触れるのは久しぶりだったこともあり、チップに共感していた。実際、〈魔王イベント〉でマカリナとともに全勝を経験したことがある彼女にとっても、チップのプレーは優秀に見えている。

 ただ単に、比較対象がおかしいだけである。

 そんなおかしな3人は、チップとラキアの気も知らず、視線を別の所に向けていた。

「あれ、宝箱ですよね?」

「たぶん」

「でも、あんなに光ってるの、おねーさん見たことないわよ?」

 モンスターハウスの出口の近くに、酷く目立つ物が置かれているのを見つけ、ハルマが首を傾げながら確認している。

 これに食いついたのは、項垂れていたチップであった。

「何っ!? 光る宝箱!?」

「知ってるのか? って、おい」

 すでに走り出していたチップを思わず追いかけ、問いかける。

「レア中のレアだよ! イベントエリア限定の宝箱で、必ず同一付加効果が4つ並んだ装備品が入ってるんだ」

「マジで!?」

「マジ、マジ! 当たり外れが大きいけど、運が良ければ、魔改造装備の超レア物が手に入る!」

 装備品は、生産職が作ると出来の良さによって差が生じる。最高品質で〈魔加術〉で付加できる能力が4つのもの。ただし〈魔加術〉で付加できる特殊効果も様々あり、付加できる効果にも幅がある。

 ハルマが今回持ち込んだガード率特化の片手剣も、最高品質のものを作るのに、かなりの時間とゴールドを消費したものだ。

 そこにきて、イベントエリアで手に入れることができる装備品だ。

 基本的に、持込アイテムが制限される関係で、頻繁に何かしら拾うことになるのだが、イベントエリア限定で、本来の〈魔加術〉では付加できない効果が付いたものが手に入ることもあった。

 例えば、本来は頭装備にしか付加できない精神系の状態異常耐性が付いた剣であるとか、足装備にしか付加できない回避率アップの付いた腕装備といった具合である。

 これが、武器にしか付加できない攻撃力の追加効果が付いた防具などを物理攻撃のアタッカーが手に入れることができれば、外では味わえない威力を発揮できることになる。

 本来の〈魔加術〉においても、〈精霊の気まぐれ〉というイベントが発生することで、同じようなことが起こるのだが、当然ながら、桁違いの金額で取引されており、気軽に入手できるものではない。

 そこにきて、今回のイベントである。

 クリア報酬として〈破界の護符〉という、イベントエリアから装備品を持ち出すことができるアイテムが確定で入手できることが判明しているので、チップの期待が膨らむのも無理はなかった。


「な、なんだか、いざ目の前にすると、緊張するな」

 光る宝箱の前に立ち、チップは動きを止めていた。ランダムで無数に存在する組合せが抽選され、どんな装備にどんな効果が付いたものかが決まる。

 内容は、パーティメンバーであってもバラバラであり、純粋に運に任せる他ない。

 チップの説明を全員が把握したこともあり、誰もがどことなく緊張した面持ちになっていた。

「こ、このまま開けない訳にもいかないから、せーので開けようか」

 モカも、珍しく、どことなくそわそわした雰囲気だ。こういうものに、普段あまり興味を示さないとはいえ、使えるかどうかは別として、レアなものが手に入ることが確定しているのだ。落ち着かないのも仕方なかろう。

「そ、そうですね」

 マカリナも、ゴクリと覚悟を決めた表情になりながら提案を承諾した。それに続いて、全員が同意を態度で示す。

「じゃあ、せーの」


 光る宝箱に手を触れる。

 後の操作は、視界に表示される〈開けますか?〉の問いに、イエスかノーで答えるだけである。

 タイミングを合わせても、動きはバラバラだったが、この確認が入るため、どの道同じタイミングにはならない。

 ハルマも、少し手間取ったこともあり、隣でチップが「おお!」と、歓喜の声を上げてからの確認となっていた。


 フェンサーヘルム+3

 守備力+23

 品質ボーナス 守備力+5

 付加効果 レア運上昇

 付加効果 レア運上昇

 付加効果 レア運上昇

 付加効果 レア運上昇


「ん? んんんんん?」

 出てきたのは、ハルマでさえも反応に困る逸品であった。

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