Ver.5/第54話
「それは、もう少し情報出すのは待った方が良いんじゃないか」
迷った時に、最初に相談する相手は、決まってチップだった。知り合いの中には、もっと頼れる年上のプレイヤーもいるのだが、チップ以外を選択するという気にはならない。
最初に相談した結果、チップの言葉に納得できなかったり、わからないと言われた場合は、別の人物にも相談するのだが、というか、そういう場合も多いのだが、変える気はない。
不思議なものだと思うが、そういう関係なのだ。
攻略方法を見つけ、詳細は伏せて濁しながら伝えた結果、さほど迷った様子もなくチップの結論は出た。
「やっぱり、まだ早いか」
「攻略が進むのが悪いとは思わないが、下手に速度が上がると、食糧事情が改善されないんじゃないか? 第4エリアも厄介なんだろ?」
「うーん。厄介って言えば、厄介だけど。どうなんだろ? 俺の経験だと、一番楽だったかな?」
「ん? そうなの?」
「いや。俺にとっては、って言った方が良いな。たぶん」
暗闇の中を不都合なく散策できるプレイヤーなど、稀であることくらい自覚している。そして、ダンジョンメイカーに簡単に遭遇できるのかが、ハルマにはわからなかった。
待っていれば勝手にやってくるのか、ハルマの時が運が良かったのか、それとも、何かトリガーになる行動をとったのか、わからない。
ダンジョンメイカーを追跡できなければ、変化を続ける暗闇のダンジョンを探索し続けなければならないのだ。これは、簡単なことではない。
正直、もっと意地の悪い仕掛けが施されている可能性も高いとすら思っている。あの盗賊NPCも、ハルマにとってはボーナスキャラだったが、戦ったらどうなるのかは、確かめていない。
「じゃあ、なおさら、そこまでに準備を整えた方が良さそうだな」
「だな。せめてテゲテゲさんのキャラバンが軌道に乗るまでは、伏せておくよ」
ひとりだったら、こうもあっさり決断できなかっただろうが、チップのおかげで方針が定まった。
「おう。オレ達にも、そのうち教えてくれ」
「はいよ。まあ、教えても、どうにかできるかは、わからんけどな」
いかんせん〈陽炎の眼光〉のレシピが出回っていないため、方法を公開したところで、全サーバーに行き渡るのかは、怪しいのだ。下手をしたら、ハルマのサーバーにリスタートしてでも入りたいと、人が押し寄せることになりかねない。
このことに思い至り、これの解決策も何か考えた方が良いかもしれないと思うハルマだった。
第3エリア攻略の糸口が見つかったとはいえ、ハルマがピラミッドに向かった本題は別にあった。
「いたいた。やっと見つけた」
イタズラ妖精に気を取られ、何度も入り直したせいで、検証することができずにいたが、ここに来たのは、蘇生薬の素材が手に入るかどうかを確かめるためだ。
必須素材である〈百厄の薬〉という酒をドロップするモンスターは、今のところハルマが戦ったことがあるのは、みのかさタウロスとミノタウロスだけである。他には一部のクエストボスが初回だけドロップするようだが、数は出回っていない。
ツインヘッドというドラゴン系のモンスターもドロップするのだが、こちらはCランク最強と言われるくらいに強い上に、イベントエリアでの目撃情報はない。
ピラミッド下層を徘徊していたミノタウロスは、事前情報の通り、複数体で行動していた。〈雨降りの迷宮〉のボスと同種のモンスター。つまりは、ダンジョンのボスを任されるレベルの相手ということになるのだが、〈雨降りの迷宮〉はトラップ込みの難易度のため、ボス自体の強さは大したことはない。
ハルマも、必要以上に警戒することなく、討伐を選択することにした。
「うん。〈雨降りの迷宮〉のミノタウロスと、同じモンスターだな。強さの調整もなさそうだ」
戦闘は、特筆することなく、無難に勝利で終わった。
「問題は……」
3体同時であったにもかかわらず、余裕を持って倒せたことで、関心はドロップに早くも移っていた。
むろん、これが目的で来たのだから、気が逸るのも無理はない。ハルマは、床に出現した宝箱に駆け寄り、一瞬祈りを捧げた後で、中身を確認した。
「おっし!」
思わず、ガッツポーズをとってしまった。
ひとつだけだったが、〈百厄の薬〉が入っていたからだ。
「これで、蘇生薬も確保。順調だな」
ハルマは、にんまりと満面の笑みを浮かべるのだった。
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