Ver.5/第53話
「ゴースト系ってことは、〈陽炎の眼光〉を作らないとか……。陽炎の白糸、見つかるかな? いるとしたら、砂漠地帯な気がするけど」
陽炎の白糸。マリーの服を作る時に見つけた素材であり、本来は見えないゴースト系の姿を見られるようにするためのアイテム〈陽炎の眼光〉の素材である。
採取方法は特殊で、ウツロノカゲロウという虫を捕まえなければならず、この虫は陽炎となってフィールドと一体化しているのだ。
ただ、砂漠と言えば蜃気楼と言えるくらいに、馴染みのある現象だ。
見つかる可能性は高かった。
「っと、その前に、釣り具を作っておかないとだな」
砂漠を当てもなく彷徨うことになる。
準備は先に済ませておいた方が良いだろう。
砂漠地帯は中央にピラミッド群があり、それを囲むようにオアシスが点在している。更にオアシスの周辺に、いくつか採取ポイントが設定されているが、オアシスにある採取ポイント以外は、モンスターが大量に潜んでいるので近寄るのは止めておいた方が良い。
つまりは、プレイヤーは外周から中央に向かって移動する。それ以外の行動をする余裕は、現状、ないはずだ。
ハルマ以外は。
「転移門から外に向かって行ってみるか」
最下層まで到達したことで、〈導きのカギ〉の役割は変化している。目的地を指し示す道具から、どこからでも転移門に移動できる道具へと。そのため、気軽に迷子になれる。
向かってすぐに、ちょっとだけ後悔した。
行けども、行けども、何も見当たらない。
第5エリアのどこを見ても真っ白の風景よりはマシだが、変化の乏しい世界を歩き続けるのは、精神的にキツいものがある。
今回は、陽炎を探すという目的があるので、多少は我慢できるが、照りつける太陽の下を歩き続けるのは、疑似的とはいえ茹だるような暑さに包まれる感覚だ。
しかし、苦痛に耐えながら進んでいくと、変化が出始めた。
「この辺までくると、モンスターが普通にうろついてるんだな」
今まで、砂漠地帯では潜伏型のモンスターしか見かけたことがない。それが、ポツリポツリと徘徊している姿を見かけ始めたのである。
「それに、こっちにも、オアシスあるの……か? いや、あれは……」
砂漠の地平に、薄っすらとモヤが浮かぶように、水場と樹木が見えているのだが、このエリアで見てきたオアシスとは、じゃっかん違って見えた。
「蜃気楼っぽい?」
本来であれば、蜃気楼は肩を落とすべき現象なのだが、今のハルマにとっては朗報だ。
「思ったより、早く見つかったな」
見つけたモヤは、やはり蜃気楼、ウツロノカゲロウの集合体だった。
虫捕り専用の釣り具を使い、捕まえられるだけ捕まえ、目的の〈陽炎の白糸〉を集めると、その場で〈陽炎の眼光〉を作り、とんぼ返りでピラミッドに向かうことにした。
「これで、見えると良いんだが……」
ピラミッドに入り、すぐに〈陽炎の眼光〉を使ってみる。
すると、すぐにそれは見つかった。
「お! いるいる。ってか、あれ、ゴースト、なのか?」
何と言うか、ちっちゃいマリーといった雰囲気だ。羽があり、パタパタと動かしては飛び回り、スティックを振ってトラップを仕掛けて回っている。
マリーにも見えているのだろうが、離れているからか、反応する気配はない。
「こういうところは、変にNPCなんだよな」
前回反応したのは、たまたま反応する範囲に入ってきたからなのだろう。
いるのがわかれば、追跡するのは簡単だった。
モンスターに遭遇して見失うことはあっても、トラップを仕掛けて回る関係なのか、進行速度は早くなく、すぐに追いつけたからだ。
それでも、追いかけるうちに2階層進んでしまったが、ようやく正体が判明した。
「イタズラ妖精。これも、ダンジョンメイカーと同じで〈発見〉に反応しない特殊NPCか。イベント用のNPCだろうから、見つけにくくしてるんだろうな」
イタズラ妖精は、追いかけていた1匹だけではなく、ピラミッド中に散らばっていた。そして、彼らの役割がわかってくる。
「トラップを仕掛けて回ってるだけじゃなくて、回避ルートも教えてくれるっぽいな」
追いかけていた個体が、別のイタズラ妖精の仕掛けたトラップを見つけた時のことだ。するりと、回避行動をとったのである。
最初は、たまたまなのかと思ったが、毎回決まって回避行動をとったため、確信にいたった。しかも、回避できないトラップに遭遇した時は、解除まで行ってしまったのだ。
「これは、ピラミッドの攻略速度、かなり上がるな」
トラップ問題が解決できれば、後は食糧問題だけだ。それも、テゲテゲ達が生産職を連れてきてくれるようになれば、キャラバンで配給も可能になる。
しかし、悩ましくも思えた。
答えを教えるのが、果たして正解なのか? というジレンマだ。
「これは、要相談だな」
自分だけでは判断できない自信しかなかったので、素直に持ち帰って検討することにした。
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