Ver.5/第45話
話は簡単だった。
アイスゴーレムを2回目に倒した時のドロップアイテムに、〈奇跡のコンパス〉という、GPSに近い使い方のできるものがあったからだ。
これを使うことで、現在地の座標が割り出せる。
ただ、万能ではない。
指標がない段階で、座標だけ示されても、それが地図上のどのポイントなのかが全くわからないからである。しかし、これと〈導きのカギ〉が示す方向を組合せることで、かなり状況は改善されそうだ。
それに、ハルマには〈大工の心得〉がある。任意の地点に、目印を用意することができるのだ。
「とはいえ、〈導きのカギ〉は1時間に1回しか使えないもんなあ。もうちょ……、あん?」
使い方を把握し、攻略方法の道筋も見えてきたので、試しに〈奇跡のコンパス〉を使った数分後のことだった。
いつの間にか雪が降りやんでいたかと思ったら、青空まで見えてきた。
視界を閉ざしていた雪も消え、青と白のコントラストが目に眩しい。
何が起こったのか呆気に取られていたが、白と青の境界線に、ぴょこんと伸びる影があることに気がついた。
ハルマは慌てて、数を確認する。
地図に表記されている目印の木は、スタートが1本で、ルートを辿るごとに1本ずつ増えていくからだ。途中、2か所の洞くつを挟み、最終的に5本の木が立っている地点まで進み、ゴールに向かうことになる。
「遠くて分かりにくいけど、3本、だよな? まあ、行ってみりゃ、良いか」
だいたいの距離感がつかめたが、すぐに空は曇り出し、程なく雪も降り始めた。
おそらく、〈奇跡のコンパス〉を使ったことで、一時的に晴天になるトリガーとなったのだろう。
慎重に進みながら、何とか探し当てることに成功した。
しかし、白く染まった世界を移動するのは困難で、思っていた以上に時間はかかってしまった。何しろ、真っ直ぐ歩いているつもりなのに、いつの間にか方向がズレ、距離感もつかみにくい。そろそろ見えるはずだと思っていたのだが、いつまで経っても見つからず、何度も不安に思ったものだ。
〈奇跡のコンパス〉をこまめ使ってみたが、晴天になったのは最初の1回だけで、大まかな距離感を把握するのに役立ったくらいであった。
それでも、同じような場所を何往復もして、ついに地図上の目印と一致する場所を探し当てたのだ。
そこからは、とんとん拍子で進んでいけた。
途中からルートを辿って行っても良さそうな気もしたが、二度手間になるのは嫌だったので、スタート地点を探し当てることにする。そこで〈導きのカギ〉を使うことで、辿るべきルートの方角も知ることができる。
ゴールをぐるりと回るように地図に示された矢印を辿っていくと、途中の洞くつは採取ポイントになっていた。
数こそ少なかったものの、レア度の高いものばかりであったので、何を作るか迷うところだ。
しかし、今は早くこのエリアを抜けたかった。
神経を使うので、非常に疲れていたのだ。
メニューにあるメモ機能にこまめに座標を入力し、ルートを大きく外れないように1時間に1回の〈導きのカギ〉もチェックする。
そっちに気を取られ過ぎると、モンスターを見逃しかねないので、そちらにも気を配る。モンスターへの警戒はズキンやマリーなども得意なので、多少は負担を軽減してくれたが、ソロであるハルマにはなかなかに辛い行程だった。
そうやって、ようやく、ゴールとなる転移門に到着したのだ。
「はあ……。長かった」
実際は、このエリアに入ってから2日しか経っていないのだが、体感的にはその数倍は彷徨っていた感覚があったのだ。
そうやって、抜けた先に待っていた第6のエリアで、ハルマは唖然となる。
「え?」
転移した場所にあったのは、コロシアム。
目の前には、闘技場の舞台があるだけだ。出口も見当たらない。
『最下層到達、おめでとうございます』
『今後、〈導きのカギ〉を使うことで、任意の場所から各エリアの転移門に移動が可能になります。これにともない、1時間に1回という使用制限も解除されます』
『ただし、リスタートした場合は、設定は元に戻りますので、ご注意ください』
『人数が不足しています』
『ここでの戦闘はフルレイド戦です』
『プレイヤーが40人に達するまで待ちください』
『登録しておくと、条件が満たされた時に、案内が届きます。ここは、先着順で振り分けられるサーバーですので、メンバーの変更を希望する場合は、登録せずに再入場する必要があります。人数が40名を超える場合は、登録者の中から希望される方のみで参加することになります』
『登録しますか?』
「俺だけじゃ、クリアできないんかーい」
ハルマは、その場で膝から崩れ落ちてしまったのだった。
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