Ver.5/第42話
「ここは……、地底湖か?」
狭い通路を抜けると、開けた場所に出た。
天井も高く、街がすっぽり入りそうなほどに広い。ただ、その半分は湖が占めている。空間のあちこちに、照明の代わりになっているのだろう発光する植物が自生している。
変化はそれだけではなかった。
「ここは、モンスター出るのか」
水辺に限った話みたいだが、カエルやワニっぽいモンスターが浅瀬でノロノロと動き回っていた。それだけだったら、湖に近寄らなければ良いだけなのだが、このエリアの採取ポイントは水辺にしかないようだ。
「くそー。これだけ岩場があるんだから、採掘ポイントくらいあれば良いのに」
今のところ、〈採掘〉が必要になることはなかった。それだけ、〈採掘〉のスキルを取得しているプレイヤーが少ないということなのだろう。
すぐに湖には近寄らず、周囲の探索を先に済ませる。
やはり、水辺以外にモンスターはいないらしく、警戒する必要はなさそうだ。あちこちに通路が伸びているのも見つけることができたので、ここを拠点に探索を続けることになるだろう。
「どれくらい広いのか見当もつかないから、先のことを考えると、やっぱり湖の調査もしないとダメか……」
戦闘はなるべく避けたかったが、採取ポイントが水辺にしかない上に、食材も補充できるならしておきたい。ここで釣りができるのであれば、じっくりと探索も行えるだろう。
「さすがに、湖の中にキーアイテムがあるなんてことはないよな?」
すでに〈水泳〉のスキルは育っているので、水中での活動に支障はない。しかし、モンスターがいるのであれば、リスクが高い気がした。
とりあえず、しばらく滞在することを前提に、小さな拠点を拵えることにした。
湖から離れた場所に、小さなログハウスを建てる。
所有地ではないので、ここでモンスターがポップしてしまえば、家の中に入ってきてしまうのだが、今のところ、水辺から離れた場所は安全だ。それに、エルシアに結界を張ってもらえば、気にする必要もない。
ここから先に、同じような場所があった場合、戻ってくることはないため、使い捨てにしても問題ない範囲で素材を使っている。そのため、かなり質素なものだ。
食事がとれて、職人作業ができれば良いという程度である。
それと、ダンジョンの地形が変化するのであれば、こういった目印を置いておくのも、有効なのではなかろうか? という思惑も、少しだけある。
「そんなに強くはないな」
準備を整え、ようやく湖に近寄る。
見たところ、カエルとワニの2種類しかいないみたいだが、カエルは色によって違うモンスターで、FランクからDランクまで様々だ。一方、ワニの方は1種類だけで、こちらはCランクと侮れない。ただ、ワニの数は少なく、群れている様子もないので、必要以上に警戒しなくても良さそうだ。
とはいえ、ワニのいる場所は避けて、採取を行う。
「多少ランクの高い素材があるけど、今までとあんまり変わらないな」
水辺だけでなく、湖の中にも採取ポイントを見つけていたが、魚影も確認できたために、入ることはやめておいた。
「素材よりも、食材が先だろうな」
湖を1周し、モンスターのポップしない場所を選んで釣りを始める。
どうやら、浅瀬にしかポップしないみたいなので、何か所か安全な場所が確保されているみたいである。
警戒は怠らずに、釣り糸を垂らすと、すぐに手応えがあった。
「お? 普通の魚がちゃんと釣れるな。これなら、食材に困ることは……、釣り道具の素材の方が先になくなるか?」
釣りに必要な道具も作らなければならない。しかも、これらは消耗品なので、素材が拾えないと、いずれは釣りもできなくなってしまう。
採取ポイントで枝系の素材も手に入ったが、数は少なかった。
「なかなか、思うようにはいかないな」
自分が、誰よりも順調に攻略を進められていることには気づいていないのだが、タメ息も吐き出したくなる。
と、そんな時だった。
「うぇあ!?」
急に小さな振動を感じたかと思ったら、壁に巨大な穴が空いたのだ。
穴はパクパクと開閉し、壁から伸びてくる。
「何じゃ、ありゃ? ここ、ボスが出るの!?」
ズルズルと這って来る得体の知れない物体は、そのままの勢いで湖にまでやってきた。周囲のモンスターも、警戒はしているみたいだが、逃げる様子はない。
ジッと観察を続けていると、壁から完全に這い出した物体は、湖の中に入ってしまった。
「ワームか? ん? あの穴……。そうか! あいつがダンジョンの地形を変えてたんだな!」
たった今、できたばかりの穴に視線を向けると、自分がここに来るまでに通った通路と酷似している、というか、全く同じものであることに気づいた。
釣りをやめ、水底を覗いてみる。
ウネウネと影が蠢きながら、移動を続けている。
〈発見〉のスキルに反応はあるが、モンスターではなく、NPCのようである。
ワームはそのまま湖の底を突っ切り、渡り終えると、そのまま何事もなかったように壁に突進していく。
すると、再び小さな振動を起こしたかと思ったら、壁に穴を空けて消えていく。
ハルマは慌てて追いかけ、ワームに接近してみた。
「ダンジョンメイカー? 特殊NPCなのか」
一瞬、迷ったが、そのままついて行くことにした。
巨体の割に、移動速度は遅くなく、岩壁をくり抜きながら進んでいるにしては、異常に速いと言っても良いだろう。
それでも、ハルマの鈍足でもついていけない速さではなく、時折駆け足になる程度で見失うことはなかった。
3時間ほど追跡したところで、出会った地底湖に再び戻る。途中、3か所の地底湖を経由した。その間も、例の盗賊NPCと何度も遭遇し、その度に食糧との交換を選択したので、いくつか面白い装備も手に入った。むろん、その交渉のさいちゅうにダンジョンメイカーを見失いそうになったこともあるが、何とか1周するまで追いかけることができたのだった。
「マップを見る限り、エリア全体を回ってるっぽいな」
追跡中に、〈導きのカギ〉を使っていたので、すでに次の転移門の場所は概ね把握できている。ただ、気になるのは、どうやらダンジョンメイカーはこの1体だけではなさそうだ、という点だ。
進行速度が遅くはないとしても、最初に感じたダンジョンの変化の速度とは差異があるように感じられたからだ。もしかしたら、盗賊NPCも地形の変化に手を貸しているのかもしれない。
ともあれ、ダンジョンメイカーの数が多くとも、警戒する必要はなさそうだ。ずっと後ろをついて行っても、攻撃されることはなかったからである。
「思わぬ協力者のおかげで、予定よりもずっと早く抜けられそうだな」
マップを確認し、満足そうにつぶやく。
ハルマの思惑通り、ダンジョンは複雑に絡み合っていたが、転移門があると思われるポイントが事前に絞れていたお陰で、その日のうちに次のエリアへと向かうことができたのだった。
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