Ver.5/第36話

 大きく息を吐き出し、へたり込みそうになりながらも、勝利を噛みしめる。

「最後、焦ったあ……」

 ただ、思っていた以上に苦戦はしなかった。ダメージを受ける者も多かったが、ピインの回復だけで総崩れになることもなかったし、誰かが戦闘不能になりそうな場面もなかった。

 ハルマさえ攻撃されなければ、必要以上に警戒する相手ではないように感じられた。むろん、ハルマが無事でいる、というのが、一番難しそうだとも感じているのだが。

「何はともあれ、まだ半分も進んでないんだ。……って、おい! もう次のビッグイヤーがポップしてるじゃねーか」

 嘘だろ? と、愕然とするも、消えることもどこかに飛んでいくこともなさそうだ。しかも、倒したばかりのビッグイヤーのドロップなどを確認している間に、再びビックリトカゲが集まり始めていたのだ。

 走る。走る。走る。

 襲われ、戦い、撃破。

 走る。走る。走る。

 襲われ、戦い、撃破。

 結界を張って、小休憩。全員で食事をとって、満腹ゲージを満たす。

 これでも、ようやく半分を過ぎた程度しか進めていない。

 エルシアの結界が消えるのを見計らって、再び走り出そうと思うも、すでにビックリトカゲに囲まれているので、すぐにビッグイヤーとの戦闘に入ってしまう。

 この戦いで、初めてハルマに向けられて〈ファイアーブレス〉が向けられそうになりヒヤッとするが、シャムとバボンのスキルによってギリギリ生き残ることができた。しかし、〈抱擁〉によってダメージを肩代わりしてくれたおかげで、シャムは力尽きてしまった。

 まあ、分裂していたうちの1体だったため、すぐに回復できたのだが、危なかったことに変わりはない。蘇生薬の素材がまだ見つかっていない上に、入手もできていないので、イベントエリアから出なければ復活させてあげられないのだ。

 ビッグイヤーを相手に、苦戦はしていないものの、仲間がひとりでも減ると一気にバランスは崩れ、全滅の憂き目にあいかねない。

 それでも、何とか4体目のビッグイヤーを倒した直後のことだった。

「ん?」

 久しぶりに、視界の中にアナウンスが表示されたのである。


【称号〈ドラゴンスレイヤー〉を獲得しました】


『スキル〈竜鱗〉を取得しました』

『常時VITが5%上がる』

『常時MDが5%上がる』

『常時全ての属性耐性が10%上がる』

『毒無効を取得しました』

【取得条件/単独で、かつ、格上でありBランク以上のドラゴン系モンスターを5体撃破】


「はい?」

 第一印象は、何だこのぶっ壊れスキルは!? だった。

 称号なるものを獲得したのも初めてなので、軽く混乱した。しかし、冷静に考えてみると、強力なのは強力なのだが、毒無効以外は、ステータスの底上げだけである。ちょっと生存率が上がった程度と言えなくもない。

 森の守り神との盟約を結んでいない、端的に言えば、ハルマ以外が持っているなら……。

「にしても、ビッグイヤー4体しか倒してないんだけどな? ってか、このイベントエリアでも、戦闘はソロ扱いのままなんだな」

 今まで倒したドラゴン系の強敵を思い返してみるも、ドラゴン系にあまり遭遇することがない。低ランクであればそれなりに広く分布しているのだが、Bランク以上となるとボスクラスでしかいないはずだ。

「エリアボスに、今のところドラゴン系はいなかったよな?」

 うーん? と、逡巡していると、ふとニノエに視線が止まった。

「そうか。風喰いだな」

 ニノエに出会うキッカケとなったアウィスリッド地方に出現したクエストボス。あれも、Bランクであった。相性が良かった相手だったとはいえ、あの時よりも仲間の数が大幅に増えているので、ビッグイヤーを強敵認定できないのも無理はないかもしれない。

「まあ、どの道、ここを抜けようと思ったら、獲得できた称号だな」

 まだ2回か3回はビッグイヤーを撃破しなければならないだろう。

 思わぬスキルを取得できたが、ここで足を止めるわけにも、通常サーバーに戻るわけにもいかない。

 ハルマは、気を引き締め直し、再びビックリトカゲが徘徊するエリアを横断し始めるのだった。

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