Ver.5/第27話

「さて……。とりあえず、目的地を探ってみるか」

 1周年特別イベント〈ドアーズ〉が始まり、ハルマは早速参加してみた。

 スタンプの村に集まっていたメンバーと、発表後にあれこれ相談もして、パーティを組んでみることも検討したのだが、結局、いつもと同じソロである。

 いつもと同じ。それが意味するところは、仲間もフル参加ということだ。

 当然、持ち込めるアイテムは2種類だけということになる。

 持ち込めるアイテムを活かすためには、パーティを組むべきなのだろう。トータル数で言えば、5人か6人パーティの時が30種類と最大になる。

 ちなみに、3人パーティと8人パーティ、4人パーティと7人パーティは、それぞれ持ち込めるアイテム数のトータルは24種、28種と同数だ。

 村で話し合った際も、これを考慮して、5人から8人でパーティを組んで攻略に当たった方がいいのではないか? という意見も少なくなかった。

 だが、ここで意外な人物が少数パーティ推奨派に回ったのである。

「僕が言うのも説得力ないけど、3人以下の方が賢明だと思いますよ?」

 大人数でのパーティプレーでこそ才能を発揮する男、テスタプラスだった。

 理由は、単純明快だった。

「ほら、ここに説明あるでしょ? イベントエリア内では、自分で移動した場所でなければ復帰できないって。2ヶ月近くあるイベントなんですよ? この期間から推察するに、かなり難易度は高いと見るべきだと思うんです。しかも、吉多Pや安藤さんの話ぶりだと、順調に攻略が進んでも1か月以上かかりそうな雰囲気ですからね。そんなに長期間、常に一緒に行動するのは、現実的じゃないし、そうしようと思ったら、進行速度はかなり遅くなるんじゃないかな? 下手したら、足並みがそろわずに、途中で諦めるか、パーティを解散するしかなくなると思いますよ?」

 イベントサーバーはランダムで決められ、スタート地点もランダムだ。通常サーバーとイベントサーバーの移動は、自由に行える。イベントサーバーに再入場する際に、持込アイテムの変更も可能だが、この場合はスタート地点からのやり直しとなる。しかも、スタート地点は無数にあり、サーバー数も非公開ながら、これまでのイベントから推察するに40以上はありそうだ。サーバーによってイベントエリアの造りは変わらないが、スタート地点が変わると攻略はやり直しとなり、かなりのロスが想定される。初期のうちは問題ないだろうが、それなりに進んだ後で、となると、取り返しがつかなくなるかもしれなかった。

 このリスタートは、持込アイテムの変更だけでなく、パーティ変更の場合も適用されるのだ。最初に組んでいたメンバーが足らない状態で進行する分には、再合流できる可能性もあるため問題ないが、パーティを組み直すとなると話が変わる。また、イベントエリアに入った後でテイムモンスターを召喚することもできないため、攻略にテイムモンスターが必要だと判断した場合も、最初からやり直さなければならないのだ。

 ただし、イベントエリアに入った後に出会った、他のプレイヤーとパーティを組む場合は、何のペナルティもない。運営がもっとも推奨しているのは、おそらくこのパターンなのだろうが、この方法で知り合いとパーティを組むのは至難の業である。何しろ、スタート地点はランダムで無数にある上に、自分がどのサーバーにいるのかは、わからないからだ。

 フレンドチャットなどで合流地点を示し合わせても、サーバーが違えばパーティを組むことは不可能なのだ。

 テスタプラスが指摘したのは、パーティを組む場合、2ヶ月近く同じ時間帯に常にログインできるのか? という点である。つまり、この現実的な問題をクリアできない場合は、やめた方が良いよ、というものなのだ。

 この辺は、8人パーティを維持し続けることの難しさを知っているからこその視点に思えた。

 最初は、モカ辺りがハルマとパーティを組もうとロックオンしていたのだが、このテスタプラスの発言を聞いて諦めていた。週の半分もハルマと同じ時間帯でプレーできないからだ。

 チップ達とハルマも、どうしようかと話し合ったのだが、最終的にハルマはソロを選択することにしたのである。

 パーティを組む場合、サポートできる面も多いが、それ以上にサポートされる状況の方が多そうだと思ったからである。何しろ、自身の戦闘力は皆無に近い。戦闘力として期待できる仲間を連れて行くとなったら、それだけで持込アイテムが減ってしまう。自分だけでなく、パーティメンバー全員が。

 あれこれと天秤にかけた結果、「やってみないと、わからん」と、考えるのが面倒になって単独参加を宣言したというわけだ。

 

 ハルマは、イベントエリアに入った際に渡されたカギを取り出した。

 カギの名称は、〈導きのカギ〉となっている。

 このカギは、当然、持込アイテムには含まれない。何に使うのかと言えば、今いるエリアのどこかにある転移門を開けるために使うらしい。この転移門、プレイヤー毎に設置場所が異なり、全員が同じ場所を目指すわけではない。

 そして、カギには、もうひとつ役割があった。その名の通り、転移門がどの方向にあるのかを指し示して導いてくれるというものだ。

「えーと、何々?〈導きのカギ〉は1時間に1回だけ使用可能で、行き先を光で導いてくれます。光の強弱によって、だいたいの距離も判断できるのか」

 イベント名が〈ドアーズ〉であることから、複数の転移門を見つける必要があるのだろう。いやらしいことに、いくつのエリアを踏破しなければならないのかは、情報公開されていない。

「ま……。装備品もなーんにもないから、のんびり行きますか」

 ハルマは、指し示された方角に歩き出した。

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