第4章 ドアーズ

Ver.5/第25話

 漆黒の中に瘴気が漂う気配がある。

 もやもやとしたわずかな濃淡。

 それが、何者かが腕を振り払ったのと同時に吹き飛び、その人物は姿を現した。

 浮かび上がったのは、魔術師のローブをまとい、両手に片手剣を握る人物。フードで隠れた顔も、スカルヘルムで覆われてしまっているので、骸骨の顔にしか見えず、男性なのかも女性なのかも判別できない。

 その姿は徐々に、正体を現すようにスカルヘルムが透けていき、完全に消え去る前に目が真っ赤に輝き、吸い込まれていったかと思ったら、画面は切り替わる。

 どことなく禍々しい空気感のある場所。空は曇っているわけでもないが薄暗く、人が暮らせそうな環境には思えない。

 その場所は魔界。

 俯瞰で眺めていた視点は、とある一か所に向かっていくと、大軍勢の中で戦いを繰り広げる複数の人物が見えてきた。中でも目を引くのは、鎧を着こんだ2頭の馬に引かれる戦車に騎乗し、長槍による攻撃で正面にいる敵を次々と串刺し、吹き飛ばす豪快な人物であろう。

 しかし、その大軍勢も、不敵に笑みを浮かべる人物が放った業火の嵐によって吹き飛ばされる。

 凄まじいまでの威力でもってモンスターの大軍を吹き飛ばすのに流されるように、画面は再び切り替わる。

 今度は、8人対8人の乱戦が、テンポ良く切り取られ、見事な連携によって激闘というよりも演舞のような華麗さを見せたかと思ったら、何の前触れもなくまたも画面が切り替えられる。

 次に登場したのは、巨大なアラクネ型のモンスター。そして、それに対峙する8人組。手に汗握る戦いの最後に、特大の火炎魔法がアラクネを包んだところで、更に画面が切り替わった。

 現れたのは、超巨体のモンスター。何本もの腕を持つ、筋骨隆々としたヘカトンケイル。対する人物はただひとり。2本の片手剣を持つだけで、静かに佇む。

 しかし、いざ戦いが始まると、どちらが圧倒的強者であるのかは、一目瞭然であった。

 ヘカトンケイルの留まることを知らない攻撃を、涼やかに全て弾き返してしまうからだ。

 決着も呆気なく、ただの一閃にて消し飛ばしてしまう。

 そこに残っていたのは、そう、大魔王ハルマ。

 彼をぐるりとカメラは回り込みながら様々な角度で映していくと、知らぬ間に居場所は切り替わっていた。

 そこは玉座の間。

 ハルマは、禍々しくも豪華絢爛な玉座に、ふてぶてしくも堂々と座る。

 直後、スッとカメラが引くと、眼前にハルマの右腕たる多くのNPCと、〈大魔王決定戦〉に参加した全てのプレイヤーが並び、ハルマに跪いているのを映し出したところでGreenhorn-onlineのタイトルロゴが表示されて、新作のオープニングムービーの発表は終わりとなった。


「うおー! かっけえ」

 1周年を迎え、公式生放送が始まっている。

 その最初のコーナーで紹介されたのが、ハルマをメインキャラとして作られたオープニングムービーであった。

 これを、スタンプの村にある世界樹の前の広場で、住人全員で鑑賞していたのである。加えて、住人になっていないチョコット達動画配信者の面子と、ソラマメも参加している。

「いやいやいや。何で俺に跪いてるんだよ」

 自分がメインであるために、感慨深いものはあったが、最後の演出に顔を引きつらせてしまう。

 ハルマとしては冷や汗ものだったが、集まった面々からは批判的な反応は見られなかった。むしろ「そりゃ、大魔王が一番偉いのは当然でしょうよ」と、モカがいつものニッシッシとした笑みとともに告げたのに続いて、全員が頷いてしまう始末であった。

 1周年を記念していくつもの報告があった。新作のオープニングムービーに始まり、新規プレイヤー、並びに、カムバックプレイヤーに向けた特典の発表、期間中にログインしたプレイヤーへの新作使い魔などのプレゼント。

 そして、満を持して、事前に告知されていた大型ミッションの詳細が語られることになるのだった。

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