Ver.5/第3話
「「〈鑑定〉スキル、やっぱりあるんですね!?」」
思わず、身を乗り出す。
ハルマもマカリナも、このスキルがあることは予想はしていた。と、いうのも、ふたりが所持する〈採掘〉スキルで採取できるアイテムの中には、化石やガラクタといったものがあり、〈鑑定〉しなければ使い道がわからないものが存在したからである。
ただ、もしかしたら、先のエリアでNPCに依頼することで〈鑑定〉できるのかもしれない、という予想もあった上に、〈鑑定〉というスキルそのものの噂を耳にしたこともなかったため、探し回るということはしていなかったのだ。
加えて、〈大魔王決定戦〉であるとか、魔界の仮オープンであるとかが重なり、それどころではなかったのである。
ふたりの反応に満足したようにソラマメが頷くと、そのまま口を開いた。
「良かった。俺のとっておきの情報が、役に立ちそうだな」
ニヤリと笑みを浮かべると、説明を始める。
「ふたりとも、メニューに〈しらべる〉ってコマンドがあるのは、知ってるよな?」
「「はい」」
RPGであれば、だいたい準備されているコマンドである。
その名の通り、気になった場所や物を〈しらべる〉ためのものだ。
「使ったことは?」
「いや……。最初の頃は、ちょっと使った気がしますけど、最近はほとんど使わないですね」
「あたしも一緒です」
これは、ふたりが特殊だからではない。
メニューを開いて〈しらべる〉のコマンドを使うことなく、だいたいのことは〈しらべる〉ことができるからだ。
アイテムであれ、装備品であれ、インベントリに入っているものならば、カーソルを合わせるなり、タッチするなりすれば、簡単な説明文が表示され、どういう物なのかが把握できる。
逆に、インベントリに入っていないものだと、トラップや採取ポイントなどで〈しらべる〉を使っても、何か危険なもののようだ、であるとか、気になるものが落ちている、であるとかで誤魔化され、結局何もわからないまま終わることがほとんどなのである。
しかも、わざわざメニューを開かずとも、視線を定めて対象を認識させた後に、首を傾げる、という簡易操作で〈しらべる〉のコマンドと同一の結果を得ることも出来るのだ。
そのため、ダンジョンやクエストなどのギミックを発動させる時に、〈しらべる〉対象を見つけるために、稀に使う程度なのである。
「もう、わかったと思うけど、アイテムなり装備品なりに、ひたすらメニューにある〈しらべる〉を使うんだ。もちろん、同じ種類のものを何度もやっても意味はない。俺も正確な数字は知らないけど、800種類前後ってところだと思う。中には、違う名称なのに、同一アイテムとして扱われるものもありそうだから、その辺は、検証も難しいんじゃないかな? もしかしたら、ステータスによっても差が出るかもしれないけど、俺以外に取得してるのを聞いたことはないから、これも検証は難しいだろうな」
「そんなに!? っていうか、よく見つけましたね」
噂すら聞いたことのないスキルであったため、それなりに難易度が高いものだと思ったが、予想以上であった。
「我ながら、酔狂だとは思うよ? でも、ハルマ君に言われるのは、心外だな」
ソラマメの視線は、ハルマの家の中で寛ぐ多くのNPCに向けられる。
「そうですね。あたしも、ハルにだけは言われたくないかも……。それにしても、800って。そんなにアイテムあるんですか?」
マカリナも、ソラマメに同意しながら、数字だけ聞いて途方に暮れる。
ふたりからのイタズラっぽい笑みを向けられ、ハルマも視線を逸らしてしまう。
「ハハハ……。数字だけだと気が遠くなりそうだけど、案外、ポンポンやれると思うよ? 素材だけでも300を軽く超えてるし、装備品だって、各部位だけでも30から50種類くらいはあるだろ? ふたりとも生産職だから、たぶん、今インベントリに入ってるだけでも150から250はあるんじゃないか?」
言われて、確かにと頷く。
特にハルマの場合は、全職人をやっている関係で、インベントリにストックしている素材も材料も豊富だ。それに加えて、NPC達の分もあるので、装備品の種類も比較的豊富に取り揃えている。
むしろ、インベントリの容量が足らないくらいである。
「とはいえ、800ってなると、骨が折れますね」
「はっはっは。まあ、それはそうだな。でも、これを取得すると、恩恵もデカい。何しろ、未知のアイテムの〈鑑定〉ができるだけじゃなくて、採取する前に、何が採取できるのかわかるようになるからな」
「「え!?」」
ソラマメの説明に、ハルマもマカリナも仰天する。
散々、ハルマに驚かされてきただけに、ソラマメもしてやったりという表情だ。
「さすがに、この恩恵のデカさには、すぐ気づいたな」
「そりゃ……。だって、1日の最大採取数が決まってるんですから、採取する前に厳選できるとなれば、それだけで効率は段違いですもの」
Cランクの採取ポイントを見つけても、そこで採取できるアイテムが全てCランクのアイテムとはならない。運が悪ければ、Cランクのアイテムがひとつも採取できないことすらあるのだ。
それでも、1日の採取数のカウントは進んでしまう。
これは、採取しなければ、何が採取できるのかわからないというシステムのせいである。
そこにきて、〈鑑定〉で事前に何が採取できるのかわかるようになれば、不必要なアイテムを採取することがなくなる上に、上限一杯まで必要なものを採取できるようになるわけだ。
ハルマとマカリナが、これに食いつかないはずがなかった。
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