Ver.4/第55話

「いやー。思ってたより一方的な展開になったな。まあ、あの8人が相手じゃ、ああなるか……。ってか、ハルマにいたっては、何もしてないから、実質7人だけどな」

 最初こそ実況でもしようかと張り切っていたテゲテゲだったが、1分と経たない内に勝敗は見えてしまったため、途中から完全に観戦モードに切り替えていた。

 結果、5分と掛からずに三皇軍は全滅してしまった。

 無制限に蘇生薬を使用可という設定であっても、蘇生できるプレイヤーがいなくなってしまえば、どうしようもない。

 自業自得とは言え、少しばかり不憫に感じるほどの結果であった。しかも、純粋に実力差によってもたらされた結果であることは、誰の目にも明らかであったのだから、言い訳してもダサいだけである。

「そういえば」

 戦闘が終わり、死体オブジェとして身動きが取れなくなっていた三皇軍が次々と起き上がるのを眺めながら、テゲテゲは隣で観戦していた姉弟に視線を向けながら声をかける。

「ん?」

 反応したのは、姉の方。スズコである。

「いや。さっき、聞きそびれたヤツだよ。おれの認識ですら、ハルマはこういうことに首を突っ込むタイプじゃない。なのに、何でなんだ?」

 基本、ノリとテキトーさで遊んでいるテゲテゲであっても、ハルマが目立つことを避けるプレイヤーであることは察している。

 だというのに、今回に限っては、積極的に首を突っ込んできたのだから、不思議に思うのも無理はない。最初こそ、誰かがハルマを呼び出したのかとも思ったのだが、全員が容疑を否認したのだ。そもそも、呼んで現れたにしても、タイミングが早すぎた。

 だが、これに答えたのは、チップでもスズコでもなかった。

「あの天然不思議少年でも、大魔王の自覚があったってことじゃない?」

 コヤも、三皇軍の行儀の悪さは散々耳にしてきたので、溜飲が下がった思いで満足そうに闘技場を見下ろしている。

 しかし、その言葉は呆気なく否定された。

「違う、違う。ハル君は、そんな面倒なこと考えないわよ。もっとシンプルな理由。でしょ?」

 スズコは、苦笑いで隣の弟に視線を向ける。

「だなー。友達をバカにされたから怒っただけですよ」

 チップの確信めいた言葉に、周囲で聞いていた面々は、ぽかんと口を開けて惚けてしまう。

 え? それだけ? という、議論が短い時間ながらも展開されたのだが、そうこうしているうちに変化が起こる。

「おー。おつかれー」

 気づけば、先ほどまでハルマと一緒に闘技場で戦っていた面々がやってきたのである。

 テスタプラスを先頭にやって来た集団に、コヤがいち早く気づき、声をかけた。

「ハハハ……。何だが、よくわからないうち終わっちゃったけどね」

「ほーんと。珍しくハルちゃんが声をかけてくれたと思ったら、これだもんね。面白かったけど」

「まったくです。あれだけの数を一度に吹っ飛ばすのは、何度やっても気持ち良いものです。魔法職を育てた甲斐がありますよ」

 自分達も、何に巻き込まれたのか詳細には把握していないのか、モカに至っては、どういった集団を相手にしていたのかもわかっていない様子である。

 そのため、事情を知っていそうなテゲテゲ達の所に集まったらしい。

 ナイショ達に聞こうと思ったのだが、何やら三皇軍と揉め始めたので、後回しにされたようだ。

「え? あいつら、ケチつけてんの?」

「何か、卑怯だとか、ズルいだとか、ふざけんなとか、喚いていたかと思ったら、ハルにひとりでかかってこいよとか、よくわからない話になって。ハルも『俺も、スッキリしたんで、配信設定オフにしていいならイイよ』って」

 マカリナの説明に、近くにいた全員が一斉に視線を闘技場に向けていた。

 すると、先ほどと同じく、三皇軍の40人のプレイヤーが再登場してきたのに対し、反対の門からは、今度こそハルマがひとりで登場してきた。

「は!? あいつ、負けてやるつもりなのか?」

 配信設定をオフにしたことから、チップもハルマが敗北することを予感していることを悟っている。

「申し訳ない。オレ達もハルマさんを説得してみたんですけど、スゲーあっさりあいつらの言い分を飲んじゃって」

 遅れてやってきたチョコットも、浮かない表情だ。

「もしかしたら、ハルマ君もわかってるのかもしれないな」

 事情を聴いたテスタプラスが重々しくつぶやくのに、コヤ達が視線を向けるだけで先を促す。

「ハルマ君が負けないと、問題行為がエスカレートするってことを、だよ」

 これを聞いて、周囲は顔をしかめる。

 間違いない、と……。

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