Ver.4/第27話

「お?」

 8号砦の拡張によって、一気に住民が増え、ハルマとマカリナの作業量も膨れ上がった。地道に活動してきていれば、多少は楽もできたのだろうが、先行解放という特別な状況に浮かれていたこともあり、少し無理をしてしまっているのは否めない。

 結果、プレイヤーをサポートしてくれるNPCの成長が追いついておらず、今になって苦労しているところだ。

 基本的には、素材や材料を渡すだけで作業を代行してくれるのだが、職人NPCの熟練度が上がっていないと、少しランクの高いものを作ってもらおうとすると、成功率が低く、効率が非常に悪くなってしまうのだ。

 熟練度を上げるためには、職人NPCを教育する必要があるのだが、それには、プレイヤーが直に作業をすることで経験値を稼がなければならないのである。

 最初のうちはマカリナだけでも何とかなるかと思っていたが、ハルマによる拠点拡張の影響が想定以上に大きく、ふたりで手分けしなければ追いつきそうになかったため、ハルマもここ数日、作業場に入り浸っていた。

 そんな時だった。

 増えてきた兵士のために、弓を大量生産しようと、材料をそろえるために錬金をしていると、視界の中にアナウンスが表示されたのだ。


『錬金職人が熟練から達人にランクアップしました』

『スキル〈錬金〉に新しい職人技が追加されました』

『EXスキル〈統合〉を取得しました』

『素材、もしくは、〈錬金〉によって生み出した同一アイテム3つを〈統合〉して、上位のアイテムに変質させることができる』

【取得条件/規定値以上のDEXであり、かつ、達人以上の職人であること】


「聞いたことないスキルだな?」

 そもそも、達人にランクアップしているプレイヤーが少ない。ただ、錬金や調合は生産職の基礎となる分野のため、生産職全体の中で割合は高い。そのため、他の生産職に比べると達人に上がっている人数も多いはずなのだが、それでも、EXスキルがあるという情報を耳にした記憶はなかったはずだ。

 基本的に、情報収集をこまめに行う性格ではない上に、家に引きこもって作業しているせいで生産職仲間もマカリナとモヤシ以外にいないため、知らないだけという可能性もあったが、少し驚いた。

 情報に疎いとは言っても、プレイヤーバザーの流行や動向を日々チェックしていれば、こういった目新しいものは、嫌でも目に付くはずだからだ。

「ま、とりあえず、試してみるか」

 事前に知っていようが、知ってなかろうが、ハルマの行動に違いは出なかっただろう。

 手持ちの材料の中で、余っているものを取り出す。

「もう、銅のインゴットはそんなに要らないよな?」

 一部の装備品に使うことはあるが、ほとんど鉄に移行している。

 取り出した銅のインゴットを錬金用の魔法陣の上に配置し、〈統合〉のスキルを発動させる。やり方は、〈錬金〉と同じようだ。

 MPを消費することで、新たなアイテムへと生まれ変わった。

「ん?」

 出来上がったものを目にして、首を傾げる。

 一見すると、変化がなかったようにみえたからである。

「銅のインゴット★」

 ★マークが付いただけだったが、詳細を調べてみると、全くの別物であることがわかった。

「ほー。普通の銅のインゴットの約2倍の強度、で、重さは約1.5倍か。この辺の数字は、物によって変わるのかな? しかし、強度が上がるのはわかるけど、重さが軽くなるのは、ファンタジーだな……」

 実際は、重量も増えているのだが、3つが〈統合〉されたというのに、1.5倍にしかなっていないのは、単純に不思議だったのだ。

 と、ここで、様々なことを思いつく。

 たったひとつスキルが増えただけだというのに、急に世界が広くなった感覚があったのだ。

 こうなると、職人としてジッとしていられなかった。

 ハルマは、途中の作業を一時中断して、魔界を後にするのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る