Ver.4/第20話

「あー、いたいた。ハル、ちょっと手伝って!」

「ん? わかった! 今、行く」

 用件も聞かずに、渡りに船とばかりにハルマはマカリナの元に駆け寄る。

「何か、大事な話してた?」

「ん? いや。どちらかと言えば、苦手な話。だから、助かった」

「そう。なら、良かった」

「それで、何を手伝えば?」

「この先に、採掘ポイント見つけたんだけど、あたしじゃ手が届かない場所だから、登ってもらいたいのよ。この辺じゃ珍しいCランクの場所だから、何が取れるのか知りたくて」

「なるほど。そういえば、まだ〈クライミング〉取れてないんだったね」

「あたしもSTRはあんまり上げてないからね。ハルみたいに鉤縄でも見つけられるといいんだけど」

「あれは、割と特殊なクエストをクリアしないと取れないからね。もしかしたら、別の場所でも手に入るかもしれないけど……。そうだ! リナって、ロープのレシピ知らない? クライミングロープが作れたら、スキルも取りやすくなると思うんだけど」

「ロープねえ? あたし、装備品メインでしかレシピ集めてないから、たぶん使えそうなのないんじゃないかな?」

「そうかあ、やっぱりないかあ」

 ハルマも〈クライミング〉を取得してから、探してはいるのだが、見つけられていなかったのである。


「あそこなんだけど、行ける?」

 フィールドに出て、マカリナに案内されるままついて行くと、小高い岩山のような崖のような場所にたどり着いた。

 迂回して回り込めば上れそうであるが、採掘ポイントは崖の中腹にあり、上からも下からも届きそうにない。

「こういう場所の採掘にも、ロープが欲しいんだよねえ」

 ペグとピッケルハンマーはそろっているので、登ること自体はスキルのアシストもあって難しくない。しかし、途中で採掘するとなると、体を支えるロープがないと難しい。

 ただ、ハルマの場合は、別の解決策があった。

「鉤縄使って、何とかならない?」

「このくらいの高さだったら、鉤縄でも届くけど、トワネに手伝ってもらった方が簡単かな。頼む」

 ハルマの指示に従って、取り出したトワネは本来の大きさに戻り、崖を一度登り始める。そうやって、蜘蛛の糸を採掘ポイントの上に取り付けると、再びハルマの所に戻ってきた。

「ひゃー。トワネちゃん、そんな使い方もできるのね」

 釣り糸に絡まっていたユララを助けた時と同じ方法で、クレーンゲームの景品になったみたいに、トワネに採掘ポイントまで運んでもらう。

 後は、ピッケルハンマーを使って採掘するだけだ。


 魔界に入った最初の頃に比べると、採取できる素材はランクの高い物が増えてきた。それでも、外と同じで、Bランク以上の採取ポイントも採掘ポイントも見つかっていない。

 また、現在出回っている上級装備と呼ばれるものを作ろうと思っても、特定の素材が見つからず、中級装備止まりであった。

 どうやら、この辺は、仮オープンのため制限がかかっているようである。

「そろそろ帰ろうか」

 採掘のついでに、ふたりで採取ポイントをいくつか回って素材の回収を済ませる。モンスターの群れに遭遇すると数が多いため、行動は慎重にならざるを得ず、あまり遠出もできない。

 特に、今回は、マカリナのパーティメンバーであるラキア達も一緒ではなかったため、なおさら警戒しなければならなかった。

「そうね。って、あれ? 襲撃されてない?」

 自分のHPの減少を気にしながらハルマの提案に同意したかと思ったら、ふと視線を拠点に向ける。

「ホントだね。……って、あれ、ヤバくない?」

 遠目でも襲撃しているモンスターの数が最大規模であることがわかるほどだ。しかも、この辺に出るモンスターのランクも、だいぶ高くなっている。

 拠点には、モカを始め、動画配信の3組もいたはずだが、モカ以外は運搬作業を担当してもらっているため、残っているかは定かではなかった。

「ハル! 急いで戻るよ!」

「わかった!」

 ふたりは、転移オーブを使用して、瞬時に拠点へと移動するのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る