Ver.3/第81話(Ver.3/終話)
「いやいやいや……。すごい戦いばかりでしたね」
開口一番、吉多はどこかホッとした雰囲気で安藤に話を振る。
「そうだねえ。これは、大成功と言っていいんじゃないかな?」
安藤の言葉は、吉多に対してというより、詰め掛けている観衆に向かっての問いかけとなり、客席からは何を言っているのかわからないが、肯定的な反応が返ってきて、満足そうに頷いて見せる。
「ここにいる観客の皆さんだけでなく、配信でご覧の皆さんも、本当に盛り上がっていましたからね。それでは、おふたりから賞品の授与をお願いします」
クラッチに促され、まずはプロデューサーの吉多が前に出てきた。
「準々決勝ではいきなりヒヤッとさせられましたが、さすがは不落魔王と呼ばれるだけはある戦い。感服しました! おめでとうございます! こちら、トロフィーではなくて、ここでしか手に入らないアイテム。〈大魔王のエンブレム〉の贈呈となります。アイテムとして調べてもらうと、今大会の内容を文字情報だけでなく、動画としても振り返ることができる特殊な仕様になっています。あと、こちらは、後日、お手元に実物も届きますので、お待ちください」
〈魔王イベント〉で獲得できる魔王のエンブレムよりもだいぶ大きいサイズで、装飾ははるかに凝った物が手渡される。
「えー! すごいですね。ちょっと、すみませんが、カメラに向けて見せてもらってもいいですかね?」
まじまじとデザインを見つめていると、クラッチから催促される。
「こちら、お気づきの方もいるかもしれませんが、Greenhorn-onlineのパッケージにも使われている紋章をデザインしたもので、当然ですが、今のところ、世界にひとつしかありません」
カメラに向けられたのを確認した吉多が、追加で説明を加える。
しばらく、エンブレムを見せていると、進行は次に移ることになった。
「ありがとうございます。私も、いつか、これをもらえるようになりたいものです……。さて。賞品は、実はこれだけじゃないんですよね?」
「はい! 次の賞品は、こちらです」
まるで通販番組で、次の商品を紹介するような動作で、何もない空間を指し示した。
続いて言葉を発したのは、安藤の方であった。
「えーと。大魔王に君臨したからには、これは外せないだろうということになりました。次回の〈大魔王決定戦〉までに開催される〈魔王イベント〉へのシード権です。とはいえ、もちろん、ハルマさんのご都合もあると思いますから、権利を行使しなければならないということはありませんので、ご安心ください。でも、できれば、参加してもらえたら、嬉しいかなーとは思っていますけどね」
これには、さすがのハルマも苦笑いを浮かべてしまう。
誰あろうゲームの神様からの誘いなのだ。これをあっさり断れる高校生がいるだろうか?
しかし、ハルマの想いとは関係なしに、客席の盛り上がりは最高潮に達しようとしている。
そんな中、吉多は、どことなくニヤリとした笑みを浮かべると、口を開いた。
「そして、事前にお伝えしていた通り、大魔王を、つまりは、ハルマさんをメインにした新作のオープニングムービーを作らせていただきます。それに先立って、本日出場いただいた8組全員の魔王の皆さんには、足を運んでもらいたい場所があるんですよ」
吉多の言葉に、ハルマだけでなくクラッチまでもが首を傾げる。どうやら、司会進行と言えども、伝えられていなかった情報らしい。
「ん? それは、初耳ですよ? 一体、どこですか?」
クラッチの問いに答えたのは、安藤の方だった。
「大魔王が誕生したことですから、それに相応しい場所が必要だろうと……。お願いします!」
安藤の呼びかけに応じて、舞台上にも大きなモニター画面が表示された。この映像は、4人だけでなく、観客も、配信サイトでも同時に鑑賞可能である。
どことなく禍々しい空気感のある場所だ。
強いて似ている雰囲気の場所を上げるならば闇の大陸であるが、それとも違う。何より、見たことのない種族やモンスターが闊歩しているのだ。
「これは、どの大陸ですかね?」
クラッチも食い入るように見つめながらも、本気で悩んで見せる。
空は曇っているわけでもないが薄暗く、人が暮らせそうな環境には思えない。
ジッと流れる映像を見つめていると、ふと浮かんだ言葉があった。
「……魔界?」
ボソリと呟いたのは、ハルマだった。
「お!? 今、何ておっしゃいました?」
吉多がわざとらしく聞き返してくる。
「魔界?」
今度は、いくぶん、はっきりと口にする。
「そうです! 新エリア〈魔界〉が追加されます! 本格的に実装されるのは秋頃になる予定ですが、まずは先行で、今回〈大魔王決定戦〉に参加された方々に足を運んでいただき、そこでのプレーを元に、新オープニングムービーを作製することになりました!」
予想外のサプライズに、今までの戦いは何だったんだというくらいの歓声が押し寄せていた。
しかし、ハルマも興奮を隠せそうになかった。
新たな世界。新たな冒険。
これに興奮しない人間が、このゲームで遊ぶだろうか?
「おー! これは思わぬサプライズな発表となりました! どうですか? ハルマさん?」
「これは……。さすがにワクワクしています」
本心だった。つい先ほど、〈大魔王決定戦〉に出場することを渋っていたことを明かした人物とは思えない反応と言われても仕方ないだろう。
「それで、ずっと気になっていたんですが……」
「はい?」
「魔界には、そのお姿で行かれるんですか? それとも、いつもの不落魔王の恰好ですかね? やっぱり、メインキャラを務めることになりますから、顔は隠れてない方がいいとは思いますが、あの不落魔王の格好も、もう、象徴って雰囲気があって、捨てがたいと思うんですよ」
クラッチの問いかけに、途中から、何を言ってるんだ? と、眉根に力がこもっていく。狼の〈覆面〉は解除した。いつもの姿に戻ったはずだ。
……いつもの?
おそるおそる自分のメニューを開き、今の装備を確認する。
スイッチング機能で指定されているのは、ハンゾウにさせていた不落魔王のものではなく、いつもの恰好だった。
「なあ゛ーーーーーーーー!!」
こうして、〈大魔王決定戦〉は幕を下ろしたのだった。
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