Ver.3/第24話
「あー。やっぱり、わたしが最後?」
大扉が開かれ、出てきたのはアヤネだった。
「いや。ハルマがまだ」
「え!? 意外……でも、ないか」
アヤネはチップの言葉に一瞬驚きを見せたが、すぐに表情を曇らせながらも納得してみせた。
「それで? ハルマは置いといて、何でこんなに遅かったんだ?」
チップもアヤネが謎解き系に強いことは知っている。しかし、アヤネが最速で出てくることは滅多にないのだ。だいたい、いつも深読みしすぎて時間が足らなくなるのである。
「だってー。最初に言われたじゃない? 館の主をすくい出し、呪いが解けますことを切に願うばかりであります、って。あれに惑わされ過ぎたのよ」
悔しそうにアヤネは口を尖らせた。
「ハハハハ……。あれは、確かに……」
シュンも苦笑いで同意する。
「へ? そんなこと言ってたっけ?」
対して、妹のユキチだけでなく、チップも眉根にしわを寄せながら、そんなこと言われてたか? と、記憶を辿るほどであった。
「最後の部屋でやることって、水の中にある人形をすくって取り出さないとダメだったでしょ? で、人形にかけられた呪いを、他の部屋で見つけたアイテムを使って解くと、大扉のカギが手に入る仕組みだった。つまり、『館の主を救い出し』じゃなくて、『館の主を掬い出し』だった、ってボクは解釈したけどね」
「わたしも、さっさと最後の部屋に入れば、そう思ったんだろうけど、先に救い出さなきゃいけないと思い込んで、解呪の魔法を使いまくってたの。それで、いよいよ時間がなくなってきたから、部屋の中だけでも確認しとこうと思ったら、アレだったでしょ? 膝から崩れ落ちそうになったわよ」
実際、膝から崩れ落ちて、地面に平伏しながらアヤネは後悔を口にしたが、即座に立ち上がり表情を一変させる。
「はあ……。でも、ハル君がまだ出てきてないってことは、わたしの見つけられなかった館の主を探し出したのかもね。そう思うと、けっこう悔しいかな?」
「まあ、まだそうと決まったわけじゃないけどね」
「そうに決まってるわよ! それで、またお姫様みたいな可憐な少女とか連れて帰ってくるのよ!?」
「お姉ちゃん。嫉妬の方向性がおかしいよ」
「おかしくないわよ? こんなにかわいいものを愛して止まないのに、わたしのところにはカルムしかいないなんて、不公平だもの!」
クワッと目を光らせ、アヤネは火を噴き出さんばかりの咆哮を上げる。
「アヤネの性癖は理解しがたいが、悔しいってのは同意かな?」
まあまあとアヤネをなだめながら、チップも視線を館に向けていた。
ハルマだけズキンを仲間にできた時には、条件が条件だっただけに悔しさはあまり感じなかった。
しかし、今回は全員が同じ条件での挑戦だったのだ。
ハルマにはマリーという相棒がついていたとはいえ、それでも、自分の見つけられなかった何かに親友が挑んでいるであろうことは想像に難くないのだ。
悔しさを感じるのと同時に、どんな冒険を楽しんでいるのか、ハルマの報告を待つのは愉快でもあるのだった。
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