Ver.2/第89話

「何で、いるんだよ!?」

 チップは唖然となって尋ねていた。

 自分で口にした通り、ハルマが消えてから20分程度しか経っていないのである。

「何で?」

 チップの問いに、ハルマは首を傾げる。意図が伝わっていなかったからだ。

「ハル君。ひとりで〈不死者の砦〉に行ったんだよね?」

 アヤネも自分達が何か間違っていたのかと、疑問に感じるほどだった。

「そうだよ? だから急いで戻ってきたんだけど? 何か、マズかったか?」

「リタイアして?」

「ん? リタイア? ああああ! リタイアできるんだったな! すっかり忘れてた!!」

 

「「「「「「いやいやいやいや」」」」」」


 ハルマ以外のその場の全員が、理解が追いつかないという表情になったかと思ったら、急いで使い魔のコウモリを呼び寄せていた。

「嘘……、だろ? 25分切ってやがる」

「何やったら、こんなデタラメなタイム出せるのよ!?」

 チップだけでなく、スズコも目を白黒するのは仕方のないことだった。

 モカの30分ちょっとという記録ですら異次元のタイムだというのに、それすらも軽く超えてしまっていたのだ。

「え? え? いや、一生懸命、がんばり、まし、た?」

 6人の視線が突き刺さり、恐縮する。


 ひとりイベントサーバーに飛んでしまったハルマは、友達を待たせてしまっているというプレッシャーから、とにもかくにも1秒でも早く戻らなければならないという結論に達していた。

 リタイアできることなど、焦りの中ですっかり頭の中から消えてしまっているのも無理はない。

 始まりのSEが鳴り響き、境界線を作っていた透明な結界も消え、視界の端に表示されていた時計が動き出したのと同時にトワネに飛び乗り、移動を開始する。

 目指すは、当然一番近いA門である。

 ハルマは〈覆面〉を使い、ワーウルフに変身すると金属弓を取り出す。

 普通であれば届かない距離にいるモンスターも〈離れ技〉との複合技によって狙い撃ちが可能になり、次から次に道を切り開いていく。

 付き従う仲間達も、ハルマのやる気に後押しされ、どんどん敵を殲滅していく。

 そうやってA門に到着する頃には、城壁の上に陣取っていたスカルアーチャーすらほとんど姿を消してしまっていた。

 そうなると、一番落としやすい城門である。

 高火力状態のハルマだけでなく、ヤタジャオースを始め仲間達の総攻撃によって、あっという間に侵入に成功していた。ここまでで3分ほどという驚異の記録である。

 続いて、砦内部の探索もいつもであれば慎重に行動するところ、早さを重視していたため、手分けして事に当たることを選択していたのだ。

 マリー&ラフとズキン、ヤタジャオースとニノエ、そして、残りはハルマと一緒に行動する3部隊に別れ、どんどん不死者の数を減らしていく。

 これでもハルマはソロプレイヤー扱いである。討伐しなければならない数も最小で済むため、ヴァンパイアの出現も早かった。ここまでで11分。普通であれば、砦に侵入していればかなり早い方という時間だ。

 後は、〈贋作〉まで使った、いつもの総攻撃である。

 25%でのスケルトン招集が始まろうと攻撃の手が緩むことなく、ヴァンパイアを最速の7分で倒してしまう。

 結界装置の場所はチップ達に任せていたため、場所をしっかり把握していなかったせいで最後に少し手間取ったが、それでも、ランキングぶっちぎり1位の記録を出していたのだった。


 遅れてやってきたモカが、この話を聞いた直後「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! ハルちゃんサイコー!!」と、ひたすら爆笑していたものである。

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