Ver.2/第88話
「どどどどどどどどーしよう!?」
専用サーバーに移動したハルマは、チップの言葉を耳にして、うっかりミスに気づいていた。
人間、焦ると冷静な判断はできなくなるものだ。
しかも、タイムアタックでプレイヤー同士が競い合うシステム上、フレンドチャットなど外部からの情報は遮断されてしまうため、自分ひとりで解決策を見つけなければならない。
『友達を待たしてしまっている』
そのプレッシャーから、ハルマはもっとも単純な解決策を実行するために動き出していた。
一方、その頃。おいてけぼりを食らうことになったチップ達も、どうしたものかと思案に耽っていた。
「行っちゃったな」
「行っちゃったね」
「行っちゃったわね」
口々に目の前で起こった出来事を呟き目を丸くしていたが、直後、体の奥から込み上げてくる感情に素直に従うことになっていた。
「「「あはははははははははははははははははははははは!!」」」
「ハルマ、ひとりで行っちゃったぞ!?」
「最後の表情、見た? 傑作だったわあ」
誰ひとりとして心配などしていなかった。
これまでも、ちょいちょいやらかしてきているのだ。〈心眼〉を取得した時だって、うっかりミスで向かう場所を間違えたことが原因であったし、アウィスリッド地方にひとりだけ入れているのも似たような理由である。
慎重派な一面もあるくせに、どこか抜けていることも多いのだ。
「さて、どうしようか?」
チップとアヤネが腹を抱えて笑っていたが、シュンはいち早く笑いが収まり、この後どうするかを考え始めていた。
「まあ、ハルマのことだ。ひとりでも心配はないだろ? リタイアできることに気づけば、すぐに戻ってくるかもしれないけど、それはなさそうだな」
「そうね。ハル君のことだから、わーわー言いながら攻略しちゃいそう」
「じゃあ、ハルマ君が戻ってくるまで、ここで待つ?」
「そうね」
「そうだな」
3人が手持無沙汰になったところで、ふと、チップが何かを思い出し、口を開いた。
「そういえば、テゲテゲさんの動画、観た?」
「観たあー! あの人、さすがに凹んでるよね?」
「だろうな」
「テゲテゲさん、どうかしたの?」
チップの問いに、アヤネは興奮気味に返答したが、シュンだけは首を傾げていた。テゲテゲとは、このゲームの動画配信を行っている人物であり、前回のイベントでは魔王にも選ばれたことがある。
ただ、本人は武器を持たない素手縛りのプレーを続けているため、最近では更にネタに走る傾向にあった。
「あの人、〈聖獣の卵〉を粗末に扱ったらどうなるか? って、企画やってたんだけどな」
「この前、すっごい遅れて卵が孵ったんだけど、雑に扱われていたせいで、生まれてすぐに逃げられちゃったのよ」
「え!?」
「その様子を一部始終動画で配信してたものだから、伝説の神回って呼ばれてるんだよ。いやー、さすがのテゲテゲさんも、あれは呆然としてたな」
「もう、笑っちゃいけないんだろうけど、笑わずにはいられなかったわよ」
アヤネは言いながら思い出し笑いをしてしまう。
「は、ははは……。観てないけど、想像するだけで惨状は目に浮かぶよ」
おそらく、タロットカードをそろえるのにも苦労しただろうに、まさか逃げられるとは思っていなかっただろう。
「あー、チョコットさんな。名前だけなら聞いたことある。テゲテゲさんと違って、ガチプレーメインの配信者で、最近、頭角を現してきた感じだな」
「ふーん」
取り留めもない話をしていると、背後から声が聞こえてきた。
「おーい。3人とも今から挑戦にいくところ?」
「あ! ねーちゃん。どうしているんだよ?」
「どーしてって。あたしらもこの村の住人なんだから、いるわよ」
「そうじゃねーよ。今日はバイトじゃなかったのかよ?」
「ああ。何か、先輩がシフト変わって欲しいっていうから、休みになったのよ。だから、あたしらも最後の追い込みでリベンジ行くつもり」
スズコ達は何度か挑戦して1時間を切るタイムを出せるようになっていたが、ランキングボードの移ろいは早く、50分台前半でなければ600位以内には入れなくなっていたのだ。
「それで、何してたの? 打ち合わせ?」
チップ姉弟のやり取りが落ち着いたところで、後ろからおずおずとミコトが声をかけてきた。更に後方からは、ゴリもやって来るのが目に入る。
「あー。それがカクカクシカジカで……」
「あっはっは! ハル君らしいわね。それで、後どれくらいかかりそうなの?」
「んー? まだ20分くらいしか経ってないから、まだしばらくかかるんじゃ……」
スズコに訊かれ、チップが答えている途中のことだった。
「チップ、シュン、アヤネ! すまん! 待たせた!」
両手を顔の正面で合わせ、頭を下げるハルマがその場に現れたのだった。
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