Ver.2/第86話
「もー! また、あのオッパイに負けたあ!」
ランキングボードの1位の座から動く気配のないモカのタイムを睨みつけ、ひとりの女性が声を荒げた。
「まあまあ、コヤさん。あの人は、何というか、野生動物みたいな人だから」
両手で押さえつけるような仕草で仲間を落ち着かせるのはテスタプラスだった。Greenhorn-onlineの世界で、間違いなくトップレベルの強さを誇るパーティのリーダーであるのだが、コヤと呼んだ女性の前では、頼りなさを感じてしまうほどである。
「まあ、コヤちゃんもオッパイの大きさで勝ち目がない分、ゲームくらいは勝ちたいよな」
ぼんやりした表情の男性が頷きながら同意を求めるが、当然、返ってくるのは罵倒であった。
「うっさい! 留年2年目確定! アンタのせいでテイムモンスターの育ちにバラつきが出てるの自覚しなさいよね」
「おっふ。ありがとうございます」
「褒めてねーよ」
ほんのり上気する表情のモッチッチを、コヤはゲシゲシと蹴り付ける。もちろん素通りしてしまい、蹴ってる雰囲気だけである。
しかし、その様子を眺めている他のメンバーは、通常運転だとばかりに微笑みを浮かべるばかりだ。
「さて、冗談もこのくらいにして、次の対策を考えようか」
一通り気が済んだのか、コヤの興奮が収まったタイミングでテスタプラスが仲間を見回す。
「対策っていってもなあ……。今回のタイムも、けっこう頑張った方だぜ?」
仲間のひとりが口を開く。確かに、コヤは悔しがっているが、タイムとしては40分台前半であるので文句を言うレベルではない。実際、ランキングでは4位の好成績なのである。しかも、2位と3位との差も秒単位だ。
「それでもさ。僕としては最後の最後までベストを尽くしたいんだよ。これは、感覚でしかないんだけど、モカさんほどじゃないにしても、もう少し上を狙える手応えはあるんだよね」
「俺もテスピーに賛成っす。それに、このタイムだったら本選出場は間違いないはずなんで、多少無茶をしてもいいんじゃないですか?」
どことなくチャラさを感じる男性が、テスタプラスの援護に回る。
「まあ、な。じゃあ、無茶する前提になるけど、B門じゃなくて、A門狙うってのはどうだ? 俺たち8人だったら、いけるんじゃないかな? って、実は前々から思ってたんだよな」
「あー。それは、あたしも思ってた」
「何だ……。みんなも同じこと考えてたのか」
話し合いが続くかと考えていたが、あっさりと次の目標は決まっていた。しかも、口で言うほど簡単なことではないことも理解してのことだ。
テイムモンスターのおかげで8人8体のレイドメンバー並みの戦力で挑めるとはいえ、大量のスケルトンに攻撃の届かない位置から襲ってくるスカルアーチャーの集団にも対処しなければならないのだ。
それでいてB門を突破するよりも短い時間での攻略も求められる。
正直、無謀にもほどがある挑戦である。
しかし、彼らの顔に悲壮感はなかった。純粋に、このメンバーで新しいことに挑戦できる喜びを感じていたのだ。これをいつまで続けられるかは未知な部分もあった。だからこそ「今」を楽しみたいと思っていたのである。
その証拠に、これから数日後、ランキング2位の位置に彼らの名前が載っていた。そのタイムは、モカには届かいながらも40分を切るものであった。
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