Ver.2/第78話
最初にテイムモンスター誕生の報告があったのは、チップだった。
「ハルマ! 生まれたぞ! 情報通りリザードマンだったわ」
小さな体に大きな口で、長いしっぽをふりふりしながらチップの後ろをついてくる姿は実に愛らしい。
一緒についてきたアヤネは、その後姿を見つめては、えへえへとだらしない笑みを浮かべ続けていたものだ。
それから数日、続々と一緒にコンプリートした村の住民達に新たなパートナーが誕生していった。
スズコの所有していた卵からは、魚タイプのテイムモンスターが生まれた。魚ながらも、移動はユララと同じく、宙を泳いでいる感じである。こちらは、愛らしいというよりも、ピラニアを思わせる獰猛さがにじみ出ていた。
ミコトの所有していた卵からは、ただでさえプチモンスターと小さいサイズであるのに、その中でも更に小さな猿が生まれていた。ミコトもアヤネと同じく、かわいいもの好きであるため、日がな一日愛でているようだ。
ゴリの所有していた卵からは、マシン系のプチモンスターが誕生した。マシンなのに卵から生まれるのかと、思ったとか、思わなかったとか……。
シュンの元には、ハルマと共通する隠者の卵があったのだが、そこからはサンドマンと呼ばれる、エレメント系のテイムモンスターが生まれていた。さらさらとした砂の集合体である体は、ゴーレムに近い姿でいることも多いが、流動的な動きを見せる。
アヤネとモカは同じドラゴン系ながらも、魔法職と前衛職で違いがあったのか、東洋の竜を思わせる飛翔するタイプと、恐竜のティラノサウルスを彷彿させる二足歩行タイプと、全くタイプの異なるドラゴンが生まれていた。
皮肉なことに、カワイイを好むアヤネのテイムモンスターが、最も迫力ある姿に進化しそうである。
そして、ついに、ハルマの〈聖獣の卵〉にも変化が現れた。
「お!? ヒビが入った。ってことは、そろそろか?」
チップ達の話を聞いていた限りだと、この変化が起こってから10分もかからずに生まれたらしいので、そのまま待機することにしていた。
ハルマだけでなく、その変化を仲間達もジッと見守っている。いや、マリーだけはそわそわと卵の回りを落ち着かない様子で飛んでいた。
『ピシッ!』
ヒビが内側から押され、音を立てた。
その音に、少し背筋がしゃんとなる。
音は2度、3度続き、中から光が溢れてくると、一気に弾けて殻は吹き飛び、消失した。
そして、そこに残っていたのは、ぷるんとした真っ黒な球体だった。
「ハルマ! 生まれたよ!」
「んんんんんん? これは……、何だ?」
疑問に思ったのも束の間、それはぷるんと床に降りると、パチリと大きな両目を開けると同時に、影も同じように両目を開けた。
本体と影は別々の意志を持っているらしく、それぞれが思い思いの方向をキョロキョロと確認しては、「ぴーぴー」と鳴いていた。
「プチシャドースライム、か。〈隠者〉と〈世界〉の双子っていうよりも、ふたつで1つなんだな」
メニュー画面を操作して、確認していく。
「うわ! 聞いてたよりも、ずいぶんステータス高いんだな。DEX以外は、すでに俺より高いし……。それに、たくさん属性持ってるんだなー。さすがはタロットカード2枚分」
初期値のステータスとしては、全体的にバランス良く育っており、すでにレベル15程度はあるように思えた。また、内在する属性も、風、水、闇の3種類も確認できたのだ。
ハルマは気づいていない。
この属性に関わりのある仲間しか、回りにいないことを。
ハルマは気づいていない。
〈聖獣の卵〉を孵化させるのに、誰が協力していたかを。
そう。このテイムモンスター、ただタロットカード2枚分の潜在能力だけで、これだけの強さを持って生まれたわけではない。
今までハルマが築いてきた絆があればこそ、なのであった。
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