Ver.2/第45話

「ふー。完勝!」

 ものの数十秒で終わった戦闘に、満足しながらハルマは逃げていったジャアクビーの後姿を見送る。

 捨て台詞くらいはあるかと思ったが、ジャアクビーロードが倒された途端、それこそ蜂の巣を突いたように騒がしく撤退してしまったのだ。

「おっと?」

 ジャアクビー達からは何もなかったが、アナウンスが表示された。

 

『スキル〈電光石火〉を取得しました』

『スキルの発動時間が5%短縮される』

『魔法の発動時間が25%短縮される』

『風属性と火属性の威力が5%上昇』

『スロウ無効を取得しました』

【取得条件/単独で、かつ、同格以上でありBランク以上のエリアボスもしくはクエストボスとの初回戦闘時、30秒以内に撃破】


「おおう……。この感じ、何となく久しぶりだな」

 ソロ討伐と条件が付いているが、NPCを含めるとフルメンバーのパーティと同じ8人での討伐なのである。これ以上仲間が増えたらどうなるのかと、それはそれで楽しみであるのだが、気まずさは増すばかりだ。

「それにしても、発動速度が短縮されるのは何となくわかるけど、何で風と火属性の威力が上がるんだ?」

 しばらく首を傾げていたが、〈電光石火〉という文字を見てピンときた。

「雷って、風属性の分類だし、石火って、確か火打石の火のことだよな? それでか? ずいぶん無理やりだな」

 それもそのはずである。

 このスキルを作った人物でさえ、取得するプレイヤーが現れるとは思わずに用意しているものなのだ。いわば、悪ふざけの類で考えているのだから、こじつけで付け足したものも反映されてしまっているのだ。

「まあ、俺にとっては好都合だから、ありがたく使わせてもらうかな」

 ハルマはスキルの確認を終えると、視線を長老樹に向ける。


「さて。本題の〈癒しの水〉は、っと」

「ハルマ様。それでしたら、あの中っす」

 辺りを見回しながら探していると、ニノエが教えてくれた。

 指さす方を見てみると、奥にちょっとした丘があり、地下に伸びているらしい階段があることがわかった。

「地下水、なのかな?」

 ジャアクビー達は完全に姿を消してしまったので邪魔者もいない。早速、向かうことにした。


 地下へと伸びる階段はしっかりした石造りで、その昔、ダークエルフが整備したものらしい。

 地下の洞くつは深くなかったが、緩やかに奥へと続いていた。

 道中は誰が用意したのかわからないが、松明の明かりで照らされている。

 しばらく進み、最奥の扉を開けると、なんとも毒々しい色の泉があった。

「い? これが〈癒しの水〉なの?」

 緑色の液体は、どちらかと言えば汚染水の雰囲気だ。

「なんてことを……。どうやらジャアクビー達に汚されたみたいっす。くー。これじゃあ、使い物にならないっす」

「えー!? どうにかならないのか? これが目当てで来たんだぞ?」

「いやー。私の知識じゃ、どうにもならないっす。里に戻れば、誰かわかると思うっすけど……。どうっすかねえ?」

 ニノエとふたりで頭を抱えていると、トワネが割って入ってきた。

「これは……。ハルマ殿。この水はジャアクビーに直接汚されたわけではなく、長老樹の力が弱まっているのが原因だと思います。なので、弱った長老樹に活力を戻してあげれば、自然と復活するはずですよ」

 さすがは風の大陸の森の守り神である。

 トワネの言葉に、なるほどと頷くハルマだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る