Ver.2/第44話

 人の拳よりちょっと大きい程度のサイズであるジャアクビー達が群れをなして飛んでいる広場に足を踏み入れると、一気に騒々しくなった。

「人間だ!」

「人間だ!」

「人間だと!? どうやって入ってきたんだ!? 風喰いはどうした!?」

 ブンブン羽を動かしながら右往左往している。

「風喰いなら、我らが食ってやったわ」

 ヤタジャオースが愉快そうに返すが、実際はまだ食べていない。というのも、ズキンが手に入れていたドラゴンの肉は、イベント終了後に、ハルマのインベントリに収まっていたからである。

 ジャアクビー達が慌てているうちに倒してしまえれば良かったのだが、すでにイベントは始まっているらしく、戦闘には入れなかった。

 用意されたボス戦の相手は、どんなだろうかと待ち構えていると、ひと際大きな羽音が聞こえてきた。

「あれは! ジャアクビーロードです! 手強いですよ!」

 トワネの言葉を聞きながらジャアクビーロードに目を向けると、明らかに普通のジャアクビーよりも大きいことがわかる。普通のジャアクビーが人の拳よりちょっと大きい程度であるのに対し、ジャアクビーロードは一気にサイズアップして、ハルマと大差ない大きさだったのだ。

 この上にキングとクイーンがいるとなると、最終的にはドラゴンと変わらない相手になりそうだ。

「われらの縄張りに潜り込むとは良い度胸だ。大人しく、われらのエサになるがいい!」

 ボスらしい台詞を吐いたかと思ったら、周囲のジャアクビー達がロードの指揮に従って隊列を組み始めた。

 前列、中列と2列の隊列の最後尾にロードが構えると、満を持して戦闘が開始された。

「行くぞ! 後のことは考えないで、最初から最大火力だ!」

 今回、ハルマが採用した作戦はいたってシンプルである。

 先人の偉大な言葉を使うなら、先手必勝。

 この世界の戦いはターン制ではないため、攻守が入れ替わるタイミングは決まっていない。それでも、行動順は発生するため、先に攻撃できるだけでアドバンテージを得る可能性がある。

 ハルマの場合、未知の敵に対して長期戦にもつれ込むのは、それだけで自身がダメージを受ける可能性があるので避けたいところである。エリアボスのように、負けても再挑戦が容易な場合は気軽に挑めるが、イベント戦の場合は、そうもいかない。

 最悪、二度とイベントが発生しない可能性もあるので、全力で勝ちにいく必要があるのだ。

 要は、やられる前にやってしまえ! というわけだ。

「ズキン、ニノエ、合わせてくれ!」

 ハルマも前線に加わり、攻撃を行う。初手からダメージを出せる攻撃はファイアーブレスくらいしかないが、ズキンとの合わせ技で、かなり強力なものになる。しかも、ニノエの風魔法も合わせ技として機能することがわかり、3人による連携技となって業火の嵐が襲い掛かるのだ。

「ヤタジャオース、続けて! あと、〈贋作〉」

 この攻撃が収まるのを待たずに、ヤタジャオースが今度はアイスブレスを吹きかける。しかも、〈贋作〉によってヤタジャオースは2匹になって暴れ回るのだ。

 熱と冷気の連続ブレスで、ジャアクビーの隊列はあれよあれよと姿を消していき、残ったのはロードだけだった。

「一気に畳みかけろ!」

 自分も参加したいところだが、離れた所にいたジャアクビーロードには届きそうもない。後は、頼れる仲間を信じるだけだ。

 最もAGIの高いズキンを先頭に、ニノエ、ラフと続き、最後にヤタジャオースが追い撃ちをかける。

 ジャアクビーロードもAGIが高い気配があったのだが、先にトワネにデバフを頼んでいたのが効いたらしく、もたついている。

 こうして、戦いは、一方的に攻撃を仕掛けるだけで終わってしまったのだった。

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