Ver.2/第27話

 フォリートレントと名を付けられたエリアボスは、最初こそ緩慢な動きだったが、一度相手を敵を認識してからは激しく動き回った。

 幸い、何本もある枝をムチのように叩きつけてくるだけであるので、ハルマにダメージはなかったのだが、反撃する余裕もない。

「こいつ、いつになったら止まるんだよ!? 他の人、どうやって耐えたんだ?」

 普通、プレイヤーにしてもモンスターにしても、動きが止まるタイミングがある。プレイヤーの場合、スキルを使わない攻撃であれば体の動きに合わせて連続した攻撃も可能だが、所詮は通常攻撃であるため大きなダメージは出せない。ダメージを上げようと思うとスキルや魔法を使わなければならないのだが、そうなると使用前の予備動作の間や、使用後の硬直が生じて隙となるのだ。

 これは、モンスターであっても大差ない。

 つまり、フォリートレントの手が止まらないのは、これがただの通常攻撃だということだ。困ったことに、その通常攻撃であっても一度でも当たると大ダメージを受けてしまいそうな予感しかしないのである。

 その証拠に、AIで戦うNPC達も、迂闊に近寄ろうとしていない。

 ハルマはガードするので手一杯であり、ラフとズキン、ヤタジャオースは攻撃の手が止まないせいで近寄ることができずにいた。

 現状、なんと、ハルマが壁役をこなさなければならないというわけだ。

「参ったな。このまま止まらないんじゃ、いつまで経っても変化なしだぞ?」

 猛烈な連撃に堪えながら打開策を考えているも、両手が塞がってしまっているので何もできない。

 ただただガードを続けていたのだが、数分が経過したところでフォリートレントはぐったりと疲れたように動きを止めてしまった。

「え? 何だ? 攻撃してもいいのか?」

 余りの変化に躊躇してしまう。

 それがいけなかった。

 十数秒ぐったりしていたフォリートレントは体力が回復したとみえて、背筋を伸ばすように幹を直立させると、ぶるぶると全身を振るわせ始めた。

「何だか嫌な予感がする! ユララ〈加護の霧雨〉! 他の皆は離れて!」

 自分はAGIが低いため攻撃に備えることしかできない。

 フォリートレントは体内にため込んだエネルギーを放出するように枝を四方八方に伸ばすと、葉をまき散らしながら黒い霧を吹き出した。

「ひぃ!〈加護の霧雨〉なかったら、絶対に状態異常のオンパレードになってたやつだ」

 突き刺すような直線的な枝による攻撃を剣で防ぎ、飛んでくる葉っぱも叩き落す。

 しかし、これだけの大技を使ってきたからには、相手にも相当の隙ができていた。

「このタイミング逃したら、次、いつになるかわからないぞ! 一斉に攻めろ! ヤタジャオースに〈贋作〉!」

 号令を待つまでもなく、ラフとヤタジャオースは攻撃に転じており、ズキンはハルマに駆け寄る。

「旦那様、きっと火属性の攻撃に弱いはずなので、あれをお願いします」

「あー。どう見ても植物系だもんな。オッケー。いくぞ! ファイアーブレス!」

〈手品〉スキルの火吹き芸に合わせ、ズキンは〈天狗のうちわ〉を扇ぐ。ふたつのスキルが混ざり合い、ファイアーブレスは更なる威力を持ってフォリートレントに襲いかかった。

「ぐおぉぉぉぉ!」

 さすがのエリアボスも、これは効果てきめんだったとみえて大きくHPを削られた。こうして、第1ラウンドはハルマ達に軍配が上がったのだった。

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