第3章 トリック・オア・トリート!

Ver.2/第15話

 直前まで告知もなしに始まった、突発的なハロウィンイベントで世間がにぎわっている頃、その表示を久しぶりに目にすることになっていた。

 

『スタンプの村の開拓がⅠからⅡに進みました』

『移住希望者が11人います。受け入れますか?』


「お? 開拓が終わったのか? けっこう時間かかるんだな」

 切り株スタンプの村には現在、住人はハルマを含めて30人いる。初期の広さではこの人数が限界だったのだが、開拓を進めることで住民を増やすことが可能で、規模が大きくなると村から町に昇格することができるらしい。

 開拓はプレイヤー(PC)が行うわけではなく、住人NPCに依頼することで進んでいくもので、およそ2カ月半かかっていた。

 前回は何も考えずに全員を受け入れたが、今回は事情が違う。

「受け入れ可能の最大人数は20人か。村の住人もマックス50人ってなると、まだ少ないけど、ようやく村っぽい規模になる感じか? でも、町ってほどの人数でもなさそうだから、まだ開拓は必要だろうな。ⅣかⅤくらいまであるのかな?」

 住人は30人いるが、世帯数で言うと15もない。3世代同居の家もあるほどなので、土地的には余裕がありそうなのだが、そこはゲームである。

 移住希望者の受け入れ回答はいつでもできるため、一旦保留し、先に確認しなければならない相手に声をかけることにした。

 こういう時、ひとりひとりにチャットを飛ばすのは手間であるので、個人に届けられる手紙を使うのが一般的だ。

 郵便局員のNPCも存在することはするのだが、だいたいはプレイヤーバザーのNPCが兼業で請け負ってくれるので、そこで便せんを購入し、手紙を用意する。

 ハルマの場合は、自宅に設置しているポストで受け取りも差し出しも可能なため、この村を知っているフレンド達に案内を出すことは簡単だった。


 最初にやって来たのは、予想に反してスズコとミコトのふたりだった。

 スズコはチップの実の姉であり、ミコトはその親友である。普段は、ここにゴリという大楯使いのタンクプレイヤーがパーティメンバーとして加わっている。

「やっほー、ハル君。拠点作ってくれるんだって?」

 プレイヤーが拠点として使える家は、始まりの町にも用意されている。ただ、こちらは非常に高額で、買い取る場合は最低でも200万ゴールドが必要だった。プレイヤーの平均所持金が50万G程度だろうと言われるため、所有しているプレイヤーは極わずかである。

 ただ、個人で所有するとなると高額だが、気心の知れたフレンドと数人で共同購入する、ということなら話は変わってくる。それを見越して賃貸制度もあるため、割高ながらも1か月、お試しで借りるプレイヤーは少なくないようである。

 とはいえ、拠点でできることは、実のところそんなに大層なことはない。

 いるだけで自動回復のペースが上がる他、専用の家具を使用することで一気に全回復も可能である点。他には、専用の保管場所が確保されるため、インベントリに収まり切らなくなったものや、使用頻度の低いものを置いておける点。ハルマのような生産職の場合だと、職人設備を置くことで専用のギルドなどに通う必要がなくなる点。

 あとは、単純にプライベートな空間を確保できる点が優れている程度だ。

 町の宿屋なども仮の拠点として使うことも可能なのだが、自分好みの空間にできる訳ではなく、回復に使ったり、仲間とのミーティング場所として使う程度のことしかできないので、使い勝手はかなり異なる。

 ハルマの狭い交流の中で、前々から提案はしていたので、交渉は早かった。

 何より、相場よりもかなりの低予算で拠点が手に入るのだから、ハルマからの誘いを断る理由もなかったのである。

 スズコとミコトに続いて、アヤネも駆けつけ、チップ、シュンも加わり、遅れてゴリとモカも顔を出した。

 これで、ハルマのフレンドは全員であり、全員がこの村に拠点を作ることを希望した。

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