Ver.2/第12話
「マジかー。ついに全滅経験かあ……」
仲間は残っているが、NPCだけの生き残りの場合はNPCが蘇生魔法を覚えていない限り、全滅扱いになってしまうのである。蘇生薬があるので、この場で復活も可能なのだが、イベント戦は失敗で終わりだろう。全滅するのはこういう感じなのかとうな垂れていたが、何だか様子がおかしいことに気づく。
「旦那様! 早く交代を!」
珍しく、慌てた様子のズキンに促されるまま差し出された手にタッチすると、立ち位置が瞬時に入れ替わっていた。
「どうなってんだ?」
リングから出たところで、首を傾げる。
HPは確かにゼロになったはずである。しかし、落ち着いて確認してみると、HPが1だけ残っているではないか。
何が起こったのかとログを確認してみると、謎はすぐに解けた。
「マリーの〈天使の気まぐれ〉か!」
いたずらゴーストから、いたずら天使に進化した時に取得していたスキルである。致死ダメージを受けた時、気まぐれでHPを1だけ残してくれるものだ。
今まで、幸いなことに経験したことがなかったため、初めて発動することになったスキルだった。
「マリー、助かった。ありがとう」
「えへへー。よくわからないけど、どういたしまして!」
どうやら、マリーに自覚はないらしい。
一方、リングの中の戦いは、ズキンに交代してすぐに決着がついていた。
狐面の獣人は魔法職系統だったらしく、素早い動きのズキンが相手では分が悪かった。
残りの獣人は牛と狼。
先に出てきたのは牛の獣人。立派なミノタウロスである。
「あいつ固そうだなー。ズキンが攻めあぐねてるなんて、珍しいな」
リングアウトした3人をまとめたほどの屈強な肉体は、見るからにVITが高そうである。
「おーい、ズキン。ヤタジャオースと交代だ」
動きは遅く、魔法を使う様子もないことから、最大火力を持つアイスドラゴンに任せることにした。ハルマが戦っても良さそうであったが、先ほどの狐のような不測の事態が起こらないとも限らないので却下した。
これが効果てきめんで、ミノタウロスと最後に残ったワーウルフも、瞬く間に蹴散らしてくれたのだった。
「ふー。皆、ご苦労さま。……ん?」
ワーウルフがヤタジャオースに倒され、五闘士全員がリングアウトしたのを見届けると、奇妙なことが起こった。
リングの外で倒れ込んでいた五闘士の獣面が、蒸発するみたいに宙に溶けていくと、そこに残っていたのはただのホブゴブリンだったのである。
そのまま眺めていると、ホブゴブリン達は意識を取り戻したように立ち上がり、自分でも何が起こっているのか理解できていないように周囲をキョロキョロしたかと思ったら、そそくさと逃げ去ってしまった。
「なんじゃ、ありゃ?」
そもそも、このイベント戦は何だったのかと首を傾げてしまう。
「ハルマー。あそこに変なのがいるー」
「変なの?」
先ほどまでホブゴブリン達が倒れていた付近を指さすのは、マリーだ。
「何も見えないぞ? 新手のイタズラか?」
最初はイタズラの線が濃厚だと思っていたのだが、一瞬、ゆらりと空気が揺らめいた気がして考えを改める。
「あの感じは……。ゴースト系か?」
普段は見えない系統のモンスターなのだが、完全に不可視なわけではない。注意深く観察すれば、薄っすらとだが存在は確認できるのだ。
が、ハルマにはそんな必要もなかった。
「こういう時のために、〈陽炎の白糸〉があるんだもんな」
マリーの着られる服を作るために使った陽炎の白糸だが、本来は、こういうゴースト系モンスターの姿を見るためのアイテムを作る素材なのだ。
作っただけでインベントリに仕舞いっ放しだった〈陽炎の眼光〉を取り出し、使用する。
「うお! なんじゃ、ありゃ?」
姿を現したのは、アメーバみたいな、形の定まらない毒々しいものだった。簡潔に表現すると、病原菌をイメージ化したものだろうか。
「明らかに触っちゃダメな系だろ、あれ。何だろな? とりあえず、スクショでも撮っておいて、後でチップに訊いてみるかな」
カメラを起動し、正体不明のモンスターを撮る。
刹那。問題のモンスターは消失してしまう。
「え?」
そうかと思ったら、アナウンスが表示された。
『幽鬼ライカンスローピィの捕獲に成功しました』
『スキル〈覆面〉を取得しました』
『覆面のレシピを覚えました』
「ほえ?」
蘇生薬の素材を取りに来たはずが、なぜだか新しいレアスキルを取得する結果になったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます