Ver.2/第11話

 通い慣れたはずのボスの間に入って、すぐに違和感を覚えていた。

 むしろ、違和を感じない者はいないだろうというくらいの変化があったのだ。

「リング?」

 元々、闘技場を思わせる戦闘エリアだったのだが、その中央に四角く区切るように4本のポールが立てられ、ロープが張られているのだ。

 これまでなら、エリアの中央に進めば奥からみのかさタウロスが登場してきたのだが、それもない。

「どうなってんだ?」

 考えられるのは、リングの中に入らなければならないということなのだが、明らかに良くないことが起こりそうなため躊躇してしまう。

「行かぬのか?」

 痺れをきらしたのか、ヤタジャオースが急かしてくる。連れているNPCは自立した存在であるが、あくまでもハルマの従者であるため、こういう時に身代わりは頼めない。

「行かなきゃダメぇ?」

「いってこーい」

 弱気なハルマを、マリーはよくわかっていないながらも後押ししてくる。

 仕方なく、ハルマは装備を二刀流に切り替え、ガード率100%の状態にしてからロープをくぐり、リングの中に足を踏み入れた。

 直後。

「レディーーーース&ジェントルメンッ! 新たな挑戦者の登場だあああ!!」

 どこから発せられたのか、闘技場内に絶叫が響き渡った。

「ひぃっ!」

 思わず肩をすくませ、身構える。

 何が始まるのかとおどおどしていると、今までならみのかさタウロスが登場してきた奥の扉に、5つのシルエットが現れた。

「挑戦者を迎え撃つのは我らが五闘士! 今宵は、いかなる戦いを見せてくれるのか!」

 戦隊ヒーローのように5人そろって入場してくるのを眺めていると、5人全員が獣人であることがわかった。

 狼男を中心に、狐、兎、牛、猿の顔に人間のような体つきである。引き締まった肉体と獣面のせいで、覆面レスラーのようである。

 と、いうか。状況的にそうなのだろう。

「今回は5人組対5人組によるタッグマッチ! 対戦は1対1で行い、他のチームメイトは仲間が敗れるか、タッチして交代しなければリングに上がれないぞ! どちらかのチームが全滅するまで戦ってもらう! 我らが五闘士の先鋒は、ワーラビットだあああ!!」

 実況なのか何なのか、よくわからない絶叫が響いたかと思ったら、兎の獣人がリングに立っていた。

 そして、訳の分からないうちにゴングが鳴り響いていた。


『カーン』


「ちょっ! いつもは頭数に入らないのに、こんな時だけあいつらカウントされてるのかよ!」

 どうやら、フラグのひとつは頭数であったらしい。

 こちらは、ハルマ、ラフ、ズキン、ユララ、ヤタジャオースがカウントされたのだろう。

 ハルマの文句も聞かずに、ワーラビットは猛烈なスピードで迫ってきた。しかし、所詮は肉弾戦。物理攻撃100%ガードのハルマが相手では、どんなに早くても無意味であった。

 プロレスラー相手に剣を使って戦ってもいいのかという疑問も浮かんだのだが、他に戦いようもないのでドレインのパッシブスキルを活かして、魔王戦の時と同じよう兎だけでなく、続く猿も受け切って倒していく。

 そうして次に登場したのは狐だった。

「い!?」

 ひとりだけプロレスラーっぽい体型でないと思っていたら、急に魔法を使ってきたのだ。

 油断していたこともあったが、一瞬の出来事だったため全く対処できず直撃してしまう。

 そうなると、魔法防御は他のプレイヤーと同じ成長速度とはいえ、ハルマの脆弱なHPでは耐えられるはずもなく、呆気なくゼロになってしまうのだった。

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