Ver.2/第10話
HPとMPの同時回復薬、ハイブリッドポーションを作ろうとしていたところ、思わぬ想定外が起こり蘇生薬のレシピを獲得してしまったハルマは、雨降りの迷宮を進んでいた。
せっかくレアなレシピを手に入れたのだから〈贋作〉を使った劣化版ではなく、〈調合〉でちゃんとした天冥の霊水を作りたいと思ったからである。
そのためには素材を集めなければならず、キーアイテムである百厄の薬は、知る限りここのボスドロップ以外に心当たりがなかったのだ。
「ヤタジャオースの実戦投入もできるし〈トラップ解除〉のスキルもそろそろ成長させたいと思ってたんだよね」
前回来た時は、チップと彼のパーティメンバーであるシュンとアヤネも一緒だったが、今回はひとりである。しかし、あの時と違い、ヤタジャオースだけでなくズキンもユララも加わっているため、心配はないだろうと思っていた。
そもそも、このダンジョンはトラップをくぐり抜けて最奥を目指すことを目的に作られた節があるため、モンスターはさほど強くない。
進路上に設置されているトラップは全て〈発見〉のスキルのおかげで丸わかりだった。ハルマにとって、このダンジョンはもはや、〈トラップ解除〉のレベル上げのダンジョンでしかなくなっていたのである。
ダンジョンボスである、ゴブリンサイズの小さなミノタウロス、みのかさタウロスもズキンとヤタジャオースが相手では数分とかからず討伐できてしまった。
「いやー。予想はしてたけど、ヤタジャオース強いなあ……」
ズキンはレベル80相当のステータスを持っているが、抜きんでているのはAGIである。そのため、純粋な戦闘タイプではない。
そこにきて、ヤタジャオースはSTRとINTが高めに設定されている。
中でも強力なのが、アイスドラゴン特有ともいえるアイスブレスによる攻撃だった。
ハルマも高いDEXを活かして〈手品〉によるファイアーブレスという名の火吹き芸ができるが、それ以上の威力であったのだ。
「くそっ! 百厄の薬じゃなかったか」
ボスには簡単に勝つことができたが、目的はそれではない。
ドロップアイテムを確認して、雄牛のツノだったことを確認すると、周回するために入口へと戻るのだった。
5周、6周と回数を重ね、少しずつ〈トラップ解除〉も成長していったが、途中からただ周回するのにも飽きてきた。
そうなると、何か目標を作らなければモチベーションは下がる一方である。
「うしっ! トラップを全部解除するのを目標にするか」
まずは軽い目標から設定する。これを軽い目標といえる時点で、おかしいとは思っていない。
このダンジョンは一度攻略すると、難易度が高いダンジョンを選択することができる。しかし、今回は素材集めが目的だったため、最低難易度のものを周回するのが効率的であろうと新しい入口は選択していなかった。
もしかしたら、上の難易度の方が目的の素材も集めやすくなるかもしれないが、それはまた今度でよかろうと考えたのだ。
みのかさタウロスがボスのダンジョンでは、見つかるトラップは全てレベル2以下だったこともあり、ハルマの高いDEXであればほぼ100%解除に成功できていた。
ただ、極稀に失敗することがあったのだ。
いたずら天使のマリーによる邪魔が入るせいである。
前回はこのマリーのイタズラのおかげで〈トラップ〉のスキルを取得することができたのだが、今回はただただハルマが困るだけに終わっていた。
「あ! またやられた!」
マリーがイタズラを仕掛けてくるのは、決まってダメージ判定の出ないトラップばかりであるので、程よい緊張感に包まれて毎回挑むことができていた。
そうやって10周目を越えた頃、ようやく目標を達成することができたのだった。
「ふー。やっとトラップ全部解除できた。これは案外、気持ち良いものだな」
吹き出てもいない額の汗を拭い、充実感を味わいながら最奥の扉を抜けて、ボスの待つエリアへを進むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます