Ver.2/第8話
アイスドラゴンのヤタジャオースを仲間にしてから最初にやったことは、自宅にこもって生産職の研究だった。
戦闘能力を確認したいとも思ったが、ステータスを見ただけでだいたいの強さはわかるようになってきたので、また時間がある時でいいかと考えたのだ。
現状、総合的に判断するとズキンよりは能力が低いが、それでもレベル70くらいの強さを持っている。また、STRやINTはすでにズキンよりも高い数値のため、戦闘力だけならもっとも頼りになるだろう。
ただでさえ過剰な戦力をそろえているというのに、更に戦闘タイプのお供が増えたことで、不落魔王ハルマの軍勢は更に盤石となったといえよう。
「HPとMPを同時に回復するハイブリッドポーションかあ……。ゲームによってあったりなかったりだよな? たぶん。あったとしても切り札的なレアアイテムって感じなことが多いイメージだから、ない可能性の方が高いかなぁ?」
ただでさえレシピがなければ作れないのである。
レシピを見つけるか、既存のレシピから発展させ、新たにレシピを生み出すしか方法はない。
生産職に必要なレシピの入手方法は、いくつかある。
店で売っているものを買う。
クエストの報酬として獲得。
スキル取得時に関連アイテムを作るために獲得。
職人のランクが上がった際に新規で覚える。
モンスターのドロップアイテムとして入手する。
ここまでが一般的な方法である。
これ以外にも〈陽炎の白糸〉を入手した時のように、専用のアイテムを作るのに必要なレシピを覚えることもある。
また、職人達の研究によって既存のレシピを発展させ、新レシピを完成させることも可能だった。この場合、特殊な仕様が用意されている。
特許制度である。
新レシピを開発すると、運営に特許を申請できるのだ。
この申請順が一番早ければ特許所有者として認められ、登録したレシピを販売する権利を得る。販売価格も権利所有者が決めることができる。
ただし、この価格は毎日減少させられる。減少幅は販売状況に左右され、よく売れれば下げ幅は少なく、売れなければ下げ幅が大きくなる。
欲を出して高価格に設定すると、全く売れずにすぐに底値にまで落ちてしまうというわけだ。むろん、基本的に適正価格で落ち着き、緩やかな減額になった後、役目を終えるまではそれなりの利益を出し続ける。
それでも、有益なレシピは多少高額になっても売れるため、中には開発したレシピで巨万の富を得ている者もいるほどだ。
ハルマも、この方法でマリーの髪を整えるためにブラシを開発したことがあるが、テイムモンスターが普及していない現状、需要は見込めないためレシピ化はしていない。しかも、派生したレシピの場合は、基礎となるレシピを覚えていなければ使えないのである。
「ポーションはアルヒ草と水系素材。MPポーションはマギアのつぼみと水系素材。普通に考えると、この両方使うのは間違いないとして、どっちのレシピも同系統の上位アイテムにしか発展しなさそうなんだよなあ」
レシピの発展には勘と予測が重要と言われる。
例えば、片手剣のレシピだと〈鉱石系材料と木材系材料〉というのが初歩のものである。この〇〇系という部分が鍵で、同じ木材系材料を使っても、銅のインゴットを使うか、鉄のインゴットを使うかで出来上がる武器が変わってくるわけだ。
銅のインゴットを使えば銅の剣になるし、鉄のインゴットを使えば鉄の剣になる。そして、それぞれ、銅の剣のレシピ、鉄の剣のレシピとして独立して所有することが可能になり、更に、どの木材系材料を使うかで、別ルートの枝分かれをする可能性を秘めている。また、銅の剣のように初歩中の初歩のアイテムになると、最初から単独でもらえたり、売っていたりするものも多い。
どの材料をどれだけの数使うべきなのかは、勘と予測、後は、地道な試行錯誤が必要であった。
また、苦労して出来上がったレシピも、すでに権利所有者のいるレシピだったという可能性もあるため、レシピ開発だけに心血を注ぐ者は多くない。
ハルマが悩んでいるのも、ポーションのレシピは、あくまでもポーションのレシピであって、HPを回復するための素材しかなく、水系素材にMP回復効果があるものを探さなければならないことに由来する。そんな水系素材があるならば、MPポーションの素材にマギアのつぼみが入ることはないはずなので、可能性はかなり低いということが推測できるのだ。
MPポーションを元にしたところで、同じことだ。
シンプルなレシピであるほど、発展させるのは難しいものである。
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