第10章 からまった糸

第69話

「ハルマ。オレは悲しいぞ?」

 真相に気づいている数少ないプレイヤーであるチップは即座に連絡を入れてきた。互いにログアウト状態だったため、直接電話がかかってきたのだ。

「いや、だって。救援求めようと思っても、みんなログアウトしてたじゃん。こっちだって大変だったんだぞ?」

 チップの一言で何を言わんとしているのかは、すぐに理解した。

 どれくらい大変だったのかは、落ちてから電話で起こされるまで数時間眠りについていたほどだ。おかげですっかり夜である。

「そうだけど!? そうなんだけど……! そうじゃねーよ!? オレ達がイベントサーバー出る前に言えよ、って話だよ」

 声の調子から本気で怒っているわけではないことはすぐにわかった。ただ拗ねているだけなことは、長いつきあいから想像できた。

「いやー。マジで〈修復〉のスキルがあるとは思ってなかったんだって。〈大工〉なり〈木工〉なりのスキルで、どうにかできたら面白いかもなー、くらいのノリだったから、何も起こらない可能性の方が高いと思ってたんだよ」

「じゃあ、なんでモカさんは一緒だったんだよ?」

「あー。あの人か……。あの人はなんというか、色々と規格外だった。残ったのも勘って言ってたぞ?」

「くそっ。これだから天然系は……。はぁ、まあ、いいや。とりあえず、どこもかしこも大騒動だから、しばらくズキンねえさんとラフを人前で使うのは止めた方が良さそうだ。何だか知らんが、どっちもモカさんみたいな変身系スキル使ったプレイヤーだと思われてるらしい。ま、知らん人が見たら、普通はそう思うか」

「マジかー。誰かに見られてたのか……。手伝ってくれたら良かったのに」

「いや。新規プレイヤーが見学で入っただけみたいだ。幸か不幸か、ハルマの目撃情報は出てないから、今まで通りで大丈夫そうな気もするけどな。一応、念のため教えとくわ……」

「そういうことね……。わかった。サンキュー」


 翌日、チップに忠告された通り人目につかないように行動していた。

 とはいえ、ここ2週間ちょっと、防衛戦〈ゴブリン軍の進撃〉の準備も含めたイベントに追われて、ゆっくりできていなかったことに加え、夏休みも最終日であるため、自宅でのんびりすることにしていた。

「思ってた以上にレベル上がってるし、スキルも増えたり成長したりしてるな。最後は戦闘に追われて確認もろくにできなかったからなー」

 職人をする気にもあまりなれず、自身のステータスを確認することから始めていた。

 イベントには比較的積極的に参加していたこともあり、最後の大軍勢を相手にする前にレベルも20にまで上がっていたのだが、最終的には27にまで上がっていた。それだけ大量に倒したということもあるが、〈トリマー〉のスキルの効果がラフとズキンにも適応されるらしく獲得経験値が増えたこと、ゴブリンハット以上のハルマにとっては格上のモンスターも大量に討伐する結果になったことも大きかった。

 とはいえ、チップ達のレベルは30台後半にまで上がっており、全体としても30台前半が一般的になってきているので、生産職としてはまずまずだがようやく人並みより少し下に追いついた程度である。

「えーと? 〈弓の心得〉がⅢに、〈片手剣の心得〉はⅣにひとつずつ、〈杖の心得〉に至ってはⅢまで一気に上がってるのか。後は、〈トラップ〉もⅡに上がってるな」 

〈杖の心得〉にかんしてはズキンの主力武器が錫杖であるためだ。

「あ。〈盾の心得〉が追加されてる。これはちょっとありがたいな。とはいえ、これも、たぶんラフのおかげか」


 スキル〈盾の心得Ⅰ〉

『Fランク防御術-盾を使える』

『盾の重さが常時1減る』

『ガード率が常時7%上がる』

【取得条件/ガードを規定の回数成功させる】


 そうやってスキルを確認していくと、見慣れないスキルがふたつも追加されていることに気づいた。

「ん? 〈離れ技〉と〈二刀流〉?」

 このふたつのスキルによって、いよいよハルマの不落魔王化が加速していくことになる。

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