第50話

 せっかくのレア素材の報酬が手に入らず肩を落としたが、実際はその後の方が大変だった。

 ハルマだけ報酬がなかったという気まずい状況の中、それぞれが気を利かして譲り渡そうとしてきたからだ。

「ハル君のおかげでもらえた報酬なんだから、遠慮しないで、ね?」

「そ、そうだよ。ハルマ君、生産職がメインなんでしょ? 私たちは売るくらいしか使い道ないし」

「も、もしかしたら、これ使ったらマリーちゃんの服も作れるかもよ? だから、そんなに気落ちしないで……」

 女性陣が口々に声をかけてきたが、男性陣も似たようなものだったのである。

「いや。本当に気にしないでください。皆からもらっちゃったら、付きあわせた俺が悪いみたいじゃないですか」

 ポリポリと頬をかきながら、皆を落ち着かせる。

 結局、グダグダが収まる気配がなかったので、今後、エリアボスの討伐に躓いた時に手伝ってもらうことで手を打ってもらうことになったのだった。


 ところが、話はこれで終わらなかった。


「はあー。今日はもう、家にこもって職人しよう」

 罠にかかったカラスの捜索は、思っていたよりは短く済んだものの、集合から数えると2時間くらいは使ってしまった。ソロプレーであれば、パッと行動に移してパッと切り上げることも可能なのだが、パーティプレーだとそうもいかない。

 その分、色んな話ができたし、有益な交流になったので満足度は高かったが、これを毎回続けるのはちょっと向かないなと思っていた。

 パーティを解散した後、〈スタンプの村〉に転移すると自分の家に向かう。

「ただいまー」

 誰が待っているわけでもないが口にすると、隣のマリーと肩に乗っていたトワネがそろって「おかえり(なさい)」と返してくれる。

「さて、何からやろうかな」

 メニューを開き、インベントリの素材をチェックしていると、背後からノックする音が聞こえてきた。

「ん?」

 音は、今入ってきた扉から聞こえる。

「ごめんください。開けてくださいな」

 この村に入って来られるのは、今のところチップたち3人と、NPCの住人だけであるはずだが、聞こえてきた若い女性の声は記憶になかった。スズコたちとはフレンドになったばかりなので、権限の設定をまだ行っていないのだ。

 怪訝に思いながら扉を開けると、そこには雪でもかぶっているのかと錯覚する、白無垢姿の美しい女性が立っていた。

 ただ、その姿を台なしにするように、胸元が窮屈なのか深い谷間が露わになってしまっている。いくらレーティングがC以上の、15歳以上でなければ遊べないVRゲームとはいえ、大丈夫なのかと心配になる露出度だ。

「えーと。どちらさま?」

 視線のやり場に困りながら尋ねる。

「あちきは、この辺りに人を探しに来たのですが、どこを探しても見つからず、彷徨っている間に足をケガしてしまいまして……。そんな時に、こちらのお屋敷を見つけ、やってまいりました。ご迷惑でしょうが、どうか泊めてくださいませんでしょうか?」

「ケガ?」

 見てみれば、確かに足に傷がある。それは何かで挟まれたような、噛みつかれたようなものだ。

 なんだかツルの恩返しみたいな、と思ったところで、この状況を把握するように、頭の中に木魚を叩くような擬音が鳴り響く。


 ポクポクポクポクポクポク……ちーん。


「あんた。助けたカラスだろ?」



 

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