第34話

 カレンダーが8月に切り替わり、チップの補習が始まる中ハルマは変わらずマイペースだった。他人のペースに付き合いたくないからソロで活動しているので、当然と言えば当然である。

 村の復興のため移住してくれるNPC用の家を建築したり、商業組合のために――結局のところ、自分のため――取引所となる建物を建築したり、教会を建てたりと、冒険もそっちのけで働き続けていた。

 当然、レベルは全く上がらなかったが、大工スキルである〈大工の心得〉はⅠからⅡに成長し、各種職人の腕が上がり、新たなレシピを覚えたりしていた。

 もともと凝り性ということもあったが、長い目でみたら、内装はともかく外観は立派なものにしたかったのだ。

 移住してくるNPCも、それぞれに生活にあった家を希望していたこともあり、画一的なものをぽんぽん造るわけにもいかなかったというのもある。しかも、自分の家の拡張までしなければならなかったのだ。

 そうやって、あーでもない、こーでもないと、頭をひねりながら、何とか満足できるものにするのに丸2日かかってしまった。


 結局、自宅は原形をとどめない4倍ほどの広さになり、2階まで増築することになった。その他にも、移住者用の住み家を3軒。馬小屋を1軒。住民が使える井戸、行商人が住み込みで使える取引所、それと併設して他の行商人が利用できる宿屋、神父とシスターの住み家も兼ねた教会を作り上げた。

 取引所や宿屋、教会といった施設にするためには、専用の家具や道具が必要になり、それらをそろえるのにも時間を取られたものである。


「あとは、移住者を所有者に設定して、取引所と宿屋に看板を設置、教会の本棚に聖典を設置すればOKのはず」

 それぞれの場所で必要な設定を済ませると、待ち望んだアナウンスが表示された。


『ハルマの開拓エリアが村に認定されました。村に名前をつけてください』


「名前かあ……。考えてなかったな。うーん。どうしよう? ファンタジーっぽい名前にすると、後々、同じ名前の町や村が出てくる可能性もあるからなあ……」

 用意しておいて当然というものなのだが、不意打ちに近い気持ちだった。

 ハルマは入力画面を見つめながら、長いこと悩み込む。

「うわー。決まらん。後で変えられると信じて、安直に切り株スタンプの村でいいや」

 入力が終わると、更にアナウンスが表示される。


『スタンプの村を転移場所として登録できるようになりました』

『村の教会を全滅時の復活ポイントとして登録できるようになりました』

『今後、村の評判を聞きつけたNPCが移住希望者として訪れることがあります。村が発展すると、町にすることができます。村から町に発展すると、いくつかの施設が解放されます』


「やっっっったあああー!!」

 念願の転移ができるようになり、ハルマは素直に拳を突き上げ、喜びを表現するのだった。

 隣で「何がどうした?」という雰囲気ながらも、喜ばしいことがあったことだけは理解したマリーも「おー!」と、両の拳を突き上げていることには気づいていない様子である。

 というのも、追加で新たなアナウンスが表示されたからだ。


『移住希望者が19人います。受け入れますか?』


「は?」

 まだ、初期の村人すら移住してきていないのに、新たな移住希望者が現れたことにも驚いたが、その人数にも驚かされた。

「いやいやいや……。さすがに早すぎるだろ? ってか、多すぎだろ!?」

 当然、通常であればこんなことにはならないのだが、いかんせん、この村には力を失っているとはいえ、森の守り神がいるのである。ボーナスが発生するのも無理はなかった。

 結局、それから追加で丸2日、村の開拓に時間を取られるのだった。

 



 

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