第27話

 町に戻る前に、集めた素材を使ってMPポーションを追加しておこうと拠点に向かっていると、もう少しで到着するという所で見慣れない物を見つけた。

「なんだ、ありゃ? 行きはなかったよな?」

 木の枝のように見えたが、それにしてはモコモコしている。

「ぬいぐるみの足?」

 マリーも落ちている物体を眺め、不思議そうにしている。マリーの言う通り、片方の先端は乱雑に引き千切られたようになっており、綿が飛び出していた。

 ハルマは自分の腕と同じくらいあるサイズのそれを拾い上げると、まじまじと観察してみた。

「おっと、クエストか!?」


『クエスト/救いを求める森の声』

【クエスト達成報酬/????】


「いや。まったくわからん」

 クエスト名から誰かが助けを求めていることだけはわかったが、クリア報酬も謎のため、今後の展開も予想がつかなかった。

「まあ、しかし、やってみるか。ぬいぐるみが壊れて修理してほしい子どもとか、かな?」

 どの道、始まりの町周辺でレベル8になったばかりのプレイヤーが受けられるようなクエストだろ? と、高を括っていたのが、大きな間違いだったことに気づくのはもう少し後のことである。

 ちなみに、このクエストの発生条件のひとつが〈発見Ⅱ〉以上を取得していることだということも、それ以上にフラグを立てるのが困難な条件を知らぬ間に満たしていることにも、気づいているはずもない。


 クエストを受注した直後、小さな声が聞こえ始めた。

「たす……て」

 頼りない声は、森の奥の方から聞こえてくるようである。

「また、幽霊関係か?」

 ちらりとマリーに目を向けると、マリーにも聞こえているようで「誰かが呼んでる!」と、キョロキョロし始めていた。

「マリー。行くぞ」

「おっけー!」

 クエストが始まってからというもの、晴天だった空は曇り始め、森の中に気持ち悪い風が流れ出した。ただ、アバターの体であるので、それを肌で感じることはできず、ざわざわと枝が揺れる音が不気味さを演出していくのを感じ取るばかりだ。

 時折現れるモンスターを討伐しながら、少しずつ声のする方へと進んで行くと、またしてもぬいぐるみの足と思しき物が落ちていた。

 当然、拾い上げる。

 すると、聞こえてくる声が少し大きくなったように感じた。

「あっちだー!」

 マリーにも同じ声が聞こえているらしく、ラフを操りながらずんずん進んで行く。その姿を後ろから眺め、ハルマは思う。


『あれ? 俺が先導するところじゃないのか?』と。


 しかし、先に進んで危険をいち早く見つけるように頼んであるのもまた事実のため、大人しく後をついていくことにする。

 そうやって更に進んだ所で、また同じ物が落ちていた。

「ほえ? 3本目? 腕と足か?」

 形に違いが見られなかったが、そういうことだろうか? と、首を傾げながら拾い上げる。すると、今度は助けを求める声とは別に、追い立てる者らしき声も聞こえてきた。

「いたぞー! 追え追え!!」

 明らかに不穏な声である。

「おっと。これは戦闘になりますね? しかも、集団を相手にしないとダメそうですよ?」

 周囲の変化から、ぬいぐるみを直して終わりの簡単なクエストではないと薄々感じていたが、どうやら一筋縄ではいかなさそうである。

 ハルマは装備を確認し、矢を変更する。

 矢は初期装備用の木の矢であれば制限なしに使えるのだが、案の定、ランクが上がると消耗品に切り替わった。

 この辺を散策するだけなら木の矢で事足りるのだが、ボス戦となると話は変わるだろう。弓は作れる最高のものを使っているとはいえ、それでもSTRの関係で性能はあまり高くないからだ。

 インベントリに準備してある中で最大ダメージが出せるのは鉄の矢だが、数は多くなかった。

「戦闘中に切り替えられるとはいえ、心許ない数だな。ま、もっと心許ないのが、自分のステータスなんだけどな」

 生産職であるハルマにどこまで戦う能力があるのか、不安しかない戦いが始まろうとしていた。




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る