第22話

「おっも……」

 まずは、壊れているところをきちんと壊す作業から始めなければならなかった。そのために、専用のアイテムである〈大きな木づち〉を取り出したのだが、餅つきで使う杵を思わせるサイズがあるため、STRが低いと持ち上げるので精一杯であった。

「マリー。ラフを使って俺にエンチャントSTRかけてくれー」

「はいよー!」

 マリーは到着してから渡された苺のショートケーキを美味しそうに食べながら、器用にラフを操作する。彼女の場合、両手が塞がっていても〈ポルターガイスト〉という、物を浮かせたり移動させたりできるスキルがあるため問題ないのである。

 ただ、この〈ポルターガイスト〉で動かせるものは小さく軽いものに限られる。また、〈傀儡〉と同時に使えていることから、戦闘用スキルでもないようだ。

「うん。これなら、なんとか」

 エンチャントがかかり、木づちの重量もやわらいだ。

 元々壊れてしまっている家の扉を叩いてみると、あら不思議。数度叩いた段階で残骸になることはなく、粒子となってインベントリに吸い込まれていく。

「あー。これは素材に戻す道具でもあるのか。変換率は悪いけど、なくなるよりはありがたい。余分に作っても残ったものは素材に戻しちゃえばいいんだな」

 木づちには平らな面と、卵のパックのような凸凹のスパイクの付いた面が対になってあり、スパイクの方で叩くと分解、平らな方で叩くと回収と使い分けができた。これで一度配置した建材を壊さず使い回すことも可能なわけだ。

 同じように壁や床に穴が空いている所も叩いてみると、無駄な部分が素材となって吸い込まれ、きれいな正方形の穴に整ってくれた。

「ふむふむ。これなら全部張り替えるのもさほど難しくないな。ただ、屋根はどうするんだ? ここは最初からあるからいいけど、手が届かないぞ? 足場を組まないとダメか?」

 作業を始めてみると新しい発見と疑問点が次々出てくる。

 それでも、この家はチュートリアル用らしく、すぐに家として最低限の条件を満たすことができた。

「すごーい! お家ができたー!」

 マリーが歓喜の声を上げるのと同時にアナウンスが表示される。


『小さな家が完成しました』

『所有者を決めますか?』

【所有者と管理者は別で設定されます。管理者は設定によって所有者を後から変更することが可能です。また、所有者のいる家は、所有者の許可なく、所有者の変更および破壊されることはありません】


「とりあえず拠点にできるってことだよな? ハルマを登録、っと。管理者に支払うゴールドの入力? 他のプレイヤーからお金取れるのか。ま、それはどうでもいいや」

 金額は0のままで登録を済ませると、すぐにアナウンスが表示された。


『小さな家の所有者としてハルマが登録されました。他の家に拠点を移したい場合は、この家の所有権を放棄しなければできません。詳しくは、家のドアに触れ注意事項をお読みください』


『スキル〈大工の心得Ⅰ〉を取得しました』

『〈大工の心得Ⅰ〉専用レシピを覚えました』

『大工道具〈張り替えローラー〉を獲得しました』

『DEXが常時35増える』

『大きな木づち系の重さが常時10減る』

【取得条件/家を1軒建てる】


「1軒建てたって判定なのか。ドアを付けて穴ふさいだだけなんだけどな」

 ドアと窓、穴をふさいだところだけが新品のため、妙に目立っていることが気になりつつ、ひとまず大きな問題のひとつを思わぬ形で解決できたことに、満足するのだった。

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