第98話 私と添い寝するバイト! 日給十万円!
「……」
鳥山さんが、教室に設置した、全身が映るサイズの鏡を見つめている。
「はぁ……」
そして、しばらくすると、ため息をつく。
この動きを、もう何回も続けていた。
ちなみに放課後で、なおかつ俺のカバンを手に持った状態でそれをやっているので、俺は帰ることができない。
待っていてもしかたないので、諦めて、話しかけることにする。
「あの、鳥山さん。カバン返してくれない?」
「魚谷くん……。私、スタイル抜群よね?」
「……まぁ」
「そうよね。やっぱり……。写真集を、出すべきかしら」
「勝手にしたら? あの、カバンを」
「人が真剣に悩んでるのに、何よその態度は!!!!」
とてもじゃないけど、真剣に悩んでいるようには見えなかった。
「いや、ボケかと思ったよ……」
「魚谷くん。ものすごい侮辱の言葉よそれ」
「写真集って、有名人とかが出すものでしょ?」
「そんなことないわよ。ユーチューバーとかでも出してるじゃない」
「今はもう、ユーチューバーは有名人だと思うよ」
「けっ」
……昭和生まれのめんどくさい人みたいな価値観持ってるんだな。この人。
「じゃあなおさら、私だって出せるじゃないの。芸能人より稼いでるのよ?」
「だから、勝手に出したら良いじゃん」
「あのね魚谷くん。察しなさいよ。あなたという想い人がいながら、写真集で、数多の思春期男子たちに、私のナイスバディが見られてしまうのよ? こんなの浮気じゃない? ね? どうなのよ」
「別に俺は気にしないから……。出したらいいじゃん」
「無関心なのね。じゃあヌードにするわ」
「それはダメだよ」
ガッツリ法律に触れる案件だ。
令和の時代に、サン〇フェ事件を再来させるつもりなのか、この人は。
「逆に鳥山さんはどうなの。自分の写真見られるのは、嫌じゃないの?」
「そうね……。お金儲けのためと考えれば、別に」
「あっ、なに。お金儲けのために、写真集出すつもりなの?」
「そうよ? それ以外にどんな理由があるっていうの?」
「いや……。鏡見てたからさ。自分の美しさをアピールしたい。とか言い出すかと思って」
「もちろん、それもあるわね。でも、世の中金なのよ。最近通販で余計なものを買いすぎて、さすがに親に怒られてしまったから、また自分で稼がないといけないの」
あの、変な腕時計とか、布団とかの話か……。
「写真集を出すってなったら、握手会をしないとダメよね……」
「いや、別に、強制じゃないと思うけど」
「私、魚谷くん以外の男って、マジで嫌いなのよ」
「じゃあ、女性に向けた写真集にしたら? スタイルに自信あるなら」
「なるほど……。でも、そういう女子を相手にするのも嫌なのよね……」
「めんどくさ」
「なんですって!?」
鳥山さんが、鏡を振り回し始めた。
なんだこのモンスターは……。
こんな沸点の低い人が握手会をやったら、十分くらいで警察沙汰になると思う。
「やっぱり、写真集はやめよう」
「じゃあ、どうやってお金稼げばいいのよ」
「バイトしなよ……」
「じゃあ、魚谷くんの家で、家政婦をするわ。魚谷くんの部屋しか掃除しないけど」
「雇わないよそんな人」
「じゃあ、魚谷くんが入った後のトイレとお風呂も掃除するから!」
「不採用です」
「魚谷くん! 可哀そうな私を、助けたいとは思わないの!?」
「自業自得じゃん……」
お金の大切さを学ぶ、良い機会かもしれない。
「普通に、ファミレスとかで働いてみたらどうだろう。社会の常識も身に尽くし」
「馬鹿にしないでほしいわね。私、接客には自信あるのよ」
「結構めんどくさい客とかも来るよ?」
「そんなの簡単よ。逆らうやつはみんなボコボコにすればいいんだわ」
「スラム街じゃないんだから」
「だいたいクレーマーとか、心の小さな人間しかいないから、大したことないのよ」
……クレーマー女子が、それを言うのか。
鳥山さんに関しては、確かに心が小さいと思ってしまうケースは多いけども。
「やっぱりやめよう。清掃員とかにしたら?」
「無理よ。汚いものなんて、触れないわ」
「さっき、風呂とトイレ掃除できるって言ってたじゃん」
「魚谷くんが使った後限定よ? あ、あと加恋ちゃんもギリギリいけるわね。えぇ」
「もうアレだね。借金とかしたら?」
「魚谷くん。恐ろしいことを言うわね。借金するくらいなら、魚谷くんに対して性犯罪をしかけて捕まった方がマシよ」
「恐ろしいこと言ってるのはどっちだよ」
まぁ、性犯罪どころの騒ぎじゃないくらいの、軽犯罪は、たくさん仕掛けられているような気がしますけども……。
なんで捕まらないんだろうこの人。警察みんな寝てるのかな。
「やっぱり、一周回って、写真集を出すしかないのよ。そうでしょう?」
「あのさ、写真集を出すのにも、お金がかかると思うんだけど、そこはどうするつもりなの?」
「魚谷くんに借りるわよ?」
「嫌だよ」
「……何を言ってるの? 私たち、結婚してるんだから、資産は一緒って決まってるのよ?」
「そうだったとして、写真集作るのって、めちゃくちゃお金かかるでしょ? 足りるわけないじゃん」
「じゃあ、魚谷くんにバイトしてもらうしかないわね」
「またおかしなことを……」
「私と添い寝するバイト! 日給十万円!」
「その金はどっから出るわけ?」
「……」
鳥山さんが、急に黙った。
「……それは言えないわね」
……怖いんですけど。
「あのさ、鳥山さん。そのバイト、俺と鳥山さんの間で、金が行き来するだけじゃん」
「そうよ? 添い寝したいだけだもの」
「話が変わってますけど」
「写真集とか……。どうでもいいわね。添い寝しましょう?」
「おいおい」
「なんで逃げるのよ!」
結局、こうなるのか……。
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