第93話 ちょ、ちょっとぉ。魚谷くん。そこはくるぶしよ……。
「魚谷くんが一人、魚谷くんが二人、魚谷くんが三人……。って、寝れないじゃない!!! こんなの! 興奮しちゃって!!!」
机に突っ伏して寝ていた鳥山さんが、急に立ち上がった。
そして、俺の席に向かって来る。
「眠れないから、魚谷くんを数えて寝ようとしたら、もうムラムラしてしまって、余計目が覚めてしまったわ! 責任取りなさいよ!」
「鳥山さん。授業中ですよ」
「五限の国語とか、睡眠のためにあるようなものじゃない」
「虎杖先生が、悲しい目をしてるよ?」
「そうね。ところで魚谷くん」
そうね。で、流されてしまった。
……ちなみに、俺も寝そうになっていたので、人のことは言えない。
「魚谷くんのせいで、目が覚めてしまったから、その罪を償うという意味でも、私と一緒に添い寝しましょう?」
「嫌だよ」
「大丈夫よ」
鳥山さんが、指をパチンと鳴らすと……。
黒服が、布団を持ってきた。
「さぁ。布団はここにあるわ」
「一人で寝てよ……」
「話の通じない男ね……。あなたと一緒に寝たいっていうだけの話じゃない」
「勘弁してください」
「魚谷くん。睡眠学習という言葉を、聞いたことがないかしら」
「あるけど……」
「それを実践するチャンスよ。さぁ、布団に入りなさい!」
「お断りします」
「……はぁ。まぁ、私もあなたとの付き合いが長いから、簡単に言うことを聞くとは思ってないわ」
鳥山さんが、またしても黒服を呼び寄せた。
さっきとは違い、少し大きめの布団がやってきた。
「まず、こっちが従来の布団ね?」
「はぁ」
「それで……。今、持ってきてもらったのが、ぐっすり眠れる素材で作った布団!」
「……え?」
なんか、通販番組みたいなことを始めだしたんだけど。
「虎杖先生! 暇でしょう? ちょっとモニターをしてちょうだい!」
「鳥山さん。私、今、教師してるんだけどなぁ」
「いいから来なさい」
「うん……」
虎杖先生も、鳥山さんの対処法はわかっている。
とにかく、言うことを聞いたほうが、早く終わるのだ。
「で、なにかな」
「まず、こっちの布団に入りなさい」
虎杖先生が、最初の布団に入った。
「普通の布団だね……」
「次に、こっちの布団に入りなさい」
「……えっ。なにこれ。すごい楽なんだけど」
「魚谷くん! どう!?」
「どうって言われても……」
「これ、すぐ寝れちゃいそう……」
「虎杖先生。教師が授業中に寝るとか、ありえないわよ?」
「頭おかしくなりそうなんだけど」
「寝るなら、そっちの布団で寝てちょうだい」
鳥山さんに、無理矢理、最初の布団に移動させられた虎杖先生は……。
……ふてくされたように、目を閉じた。
「さぁ魚谷くん。この布団のすごさはわかったでしょう?」
「わかったけど……。だからって、一緒に寝る理由にはならないよ」
「はぁ。しょうがないわね」
またしても黒服が現れて、持ってきたのは……。
「じゃじゃん! 空気清浄機よ!」
これまた、通販番組っぽいものがやってきた。
「これで空気を綺麗にすれば、より快眠が約束されることになるわ!」
「……こういうの、テレビ見て、買ってるの?」
「テレビ? いいえ。家に、親切なお兄さんがやってきて、売ってくれるのよ」
「……え?」
なんか、嫌な予感がするんだけど。
「鳥山さん。前もそんなような話、
「なんの話よ」
「ちなみにその空気清浄機、いくらしたの?」
「三十五万よ。安いでしょう?」
「……」
腐海の空気でも、清浄してくれるとか、そういう効果があるのかな。
「あ、でもでも! この布団とセットで買ったから、十三万円になったの! お買い得でしょ!?」
「下げ幅がおかしすぎるんだって」
「ちなみにこの布団は、四百五十万円だったわ」
「……」
「安いでしょう!?」
「……そうだね」
「そうよね!」
本人が満足そうなので、もうそこは触れないでおこうと思う。
「って、話が逸れちゃってるじゃない。私と添い寝しましょうよ!」
「虎杖先生と、すればいいんじゃない?」
「嫌よ。体系がうつったらどうするの?」
「あれ~? なんか急に目が覚めたぞ~?」
寝てなかったのか……。
「ねぇ鳥山さん。私が、よく眠れる方法を教えてあげようか」
「え? いや、私は、魚谷くんと添い寝したいだけで……」
「ここのツボを押さえるの」
虎杖先生が、鳥山さんの首筋に手を当てた。
すると……。
鳥山さんが、意識を失い、布団の上に倒れてしまった。
「えっ……?」
「ふふっ。私の実家、特殊な武術を教えてて……。こんくらいなら、できちゃうんだよね」
虎杖先生は、何事もなかったかのように、教壇へ戻って行った。
……何この展開。
これができるなら、最初からしてくれよ。
「むにゃむにゃ……。魚谷くんがたくしゃん……。ぬひっ、ぬひひひっ」
鳥山さんは、どうやら完全に寝ているらしく、気持ちの悪い寝言を呟いている。
「ちょ、ちょっとぉ。魚谷くん。そこはくるぶしよ……。ひゃんっ! くるぶしが……。くるぶしなのに……。くるぶしぃい……」
授業は再開されたが、全く集中できない状況が、できあがってしまった。
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