第666話あぁ!? 上等じゃねぇか!! ぶっ殺してやるッ!
食事を終えてからオヤジの店を出ると、ソフィーと一緒に道を歩く。
目的地はヤンに作られた新しい教会だ。
総管理者はエレノアで、ソフィーが助けた双子の姉弟も暮らしている。
「歩きにくくないか?」
ソフィーは俺の腕に強く抱き付いていて、少し歩きにくかったので聞いてみたが、笑顔で返事をされてしまった。
これは文句を言わずに、このままでいろってことなんだろう。そのぐらいであれば俺でもわかる。
周囲の視線が集まっていて気まずいが、柔らかい胸の感触を楽しむことに集中して意識しないように心がけていたんだが、ごろつきみたいなのに声をかけられてしまう。
「よう、いい女を連れてるんじゃねぇか。俺にも分けてくれよ」
なんともまあ、ひねりのない典型的なセリフだこと。相手から魔力は一切感じない。脅威度は低く、魔法を一発放てば黙って逃げ出すだろう。
「だから、お前たちはモテないんだよ」
「あぁ!? 上等じゃねぇか!! ぶっ殺してやるッ!」
つばが俺の顔にかかりそうな勢いでブチ切れると、ごろつきは剣を抜いた。
大通りで武器を振り回すバカだとは思わなかったが、むしろ好都合というものだ。大義名分ができたので遠慮無く戦える。俺が全力で戦っても咎められることはないだろう。
「三流にすらになれないクズ野郎、威勢だけはいいな。さっさと来いよ」
挑発すると顔を真っ赤にした。
本当に扱いやすいというか、今の時代でも珍しいほど直情的な男だな。
「死ねぇ!!」
剣を振り下ろしてきたので『魔法障壁』で弾く。
「な、何をしやがった!?」
「お前には一生わからないことだ」
こいつを脅すには『エネルギーボルト』で十分だろう。一発足下に放って、それでも逃げ出さないようなら両腕を突き刺せば、痛みにのたうち回って戦意がなくなるだろう。
魔力を練って魔法を放つ準備をする。
「ちょっとまったーーっす!」
聞き慣れた声がした方を見ると、ガンダルが走っていた。
新品のようにみえる革鎧を着ていて、腰にはショートソードがぶら下がっている。最後に見たときから少しは成長しているようで、顔つきが凜々しくなっていた。
「ラルスさん! 殺しはダメっす!!」
この程度で殺すほど短気ではないぞ。まったく何を考えているんだと思ったら、ガンダルの視線はソフィーの方を向いていた。
嫌な予感がして腕の方を見ると、近くに『ホーリーランス』が浮かんでいる。無防備な人間に放てば確実に死ぬ威力だぞ! 何を考えているんだよ!!
「ソフィー、それはやり過ぎだ」
「でも私たちのことを馬鹿にしましたよ?」
「この程度ならじゃれ合いだ。気にしたらまともに生活できなくなるぞ」
「でも……」
「これから双子と会いに行くんだろ? さっさと行こうぜ」
「わかりました」
渋々とだが納得してくれたようで、『ホーリーランス』が消滅した。
ふぅ。なんとか、ごろつきが死ぬ未来は回避できたと思ったのだが、どうやら俺の予想は外れてしまったらしい。
「おいおい、舐めんじゃねぇよ!」
自分が死にかけたとという事実を理解できてないようで、まだ元気に怒っているのだ。
本当のバカは救えないと思い知ってしまった。
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