第三章 ダークマターショック
慈悲なき宰相
オーキがエデンの王となってからしばらくが経った。
ランダーもアリサも未だに見つかっていないが、エデンは少しずつ生まれ変わっている。
レイス王との癒着のあった大商会との関係を正し、貧しい国民には補助を出したり、新商会に対しては税を優遇したりと、貧富の差を埋めるような政策を大臣たちが提案し、オーキはそれを快く承諾。
さらに
それにより、宰相キグスと新王オーキは絶大な支持を得ることとなった。
オーキ、キグス、他複数の大臣たちが参加する円卓での会議。
しばらく続いた新政策の議論の後、経済を担当している大臣『ゴーン』が直近で発生している問題を報告する。
「最近、城へと押しかけてくる商人が増えております」
「理由は?」
キグスが眉を寄せ厳かに問う。
不機嫌さを隠さないキグスに、ゴーンは委縮しながらも答える。
「それが……皆だいたい同じで、ランダー元王子から受けていた出資金を取り上げられたせいで、資金繰りが悪化し破産寸前だと」
「仕方あるまい。ランダー元王子の金は、レブナントからの裏金の可能性が高いのだ。そんな金で商売をしていたこと自体が恥だろう?」
キグスは堂々とそう告げる。
それを聞いていたオーキは、腕を組み唸った。
ランダーの金庫の資産を押収したとき、オーキも立ち会ったが、あまりの額に心底驚いた。そして
それでキグスに言われるがまま、ランダーが投資していた商会を全て調べさせ、強制的に資金を回収した。それが商売への打撃となるのは当然のことだ。
しかし冷静になって考えれば、商人たちがランダーの
「ですが、放っておいたら本当に破産してしまいますが……」
「構わん。全てはランダー元王子の責任だと言っておけ。恨む相手を間違えるなとな」
「いや、待ってくれ」
無慈悲なキグスの一言に、ようやくオーキが反応した。
キグスは戸惑いの視線をオーキへ向ける。
「王様、どうされました?」
「ランダーの出資を受けていた商会には特別に、金庫番からの同額融資を許可させよう。それも、通常よりも低い金利で」
「な、なにをおっしゃいます!? もしそれでも経営が立て直せず、彼らが破産すれば、今度は金庫番が大損することになってしまいますぞ!」
キグスは眉間にしわを寄せ、強く言い返した。
「そのときはそのときだ。とにかく今は、目の前の商会を助けることを優先しよう」
「なりません」
「これは、ランダーの資産を差し押さえたときに、対策を打たなかった我々の落ち度だ。それを民に肩代わりさせるなんてできるがわけないだろう」
オーキは語気を強め、まっすぐにキグスを睨む。
キグスはまだなにか言おうとしたが、他の大臣たちが賛成の声を上げ始め、とうとう折れた。
「……仕方ありますまい。ゴーン大臣、今後同じ理由で押しかけてきた商会には、融資の件を伝えよ。スカール大臣、金庫番の説得任せる」
「「はい」」
その日の会議は、それで閉会となった。
オーキはホッと胸を撫でおろす。
先ほど言ったことはしょせん、建前にすぎない。
本心とはまったく違う。
商会にこのまま潰れられては、自分がランダーに劣っていることの証明になってしまうのを避けたかっただけなのだ。
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