二十五グラムの宝石

Scene.025

 二十五グラムの宝石


 さめざめと降る雨を恨めしく見ていた。

 庭先の露に色めく紫陽花の傍らで彼女はいつも雨を見ている。彼女の手に下がる時代遅れの蝙蝠傘が好きだった。彼女は決してそれを拡げることは無かったけれど。

 一日に何度か響く子規の声を聞くと彼女は微笑む。

 いつも、それだけだった。

 漆黒の瞳も、艶やかな黒髪も、冷たい黒衣も、すべてが静止。すべてが幻視。真っ白な世界から彼女を見ると、少しだけ羨ましく思えた。籠の中の子規は鳴くことしかできないから。

 ある夜。傍らに彼女が佇んでいた。その漆黒の瞳に映る世界は真っ白な世界。

 さめざめと雨が降っている。

「きっと今よりは寂しくないわ」

 透き通るような声だった。彼女の唇が触れた時、子規が飛び立つ。


 これにて、了。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る