第230話 去る者

 ギードも自分の持ち場に戻ろうとしたとき――


「ちょっといいかい」


 イローナが話しかけてきた。


「どうしました?」


「私もここを離れようと思う」


「離れる? イローナさんの持ち場はどうするんですか?」


「私の班の指揮はクイナに任せるつもりだ」


「クイナさんですか……」


 クイナはイローナが留守の間女性陣をまとめることができる人間だ。


 レオンスやギード、イローナたちがデルクライル子爵の領地に滞在していたとき、ホーマン子爵領の町で女性陣をまとめていたのはクイナだ。


 統率力は問題ない。


「彼女なら、女性陣を率いてくれるはず」


「作戦の内容はどうするつもりですか?」


「事前に教えてあるわ。クイナも了承済みよ」


「そうですか」


 ギードは考える。


 イローナが抜けたときの影響がどれだけなのか想定する。


 イローナの右腕としてクイナも女性陣をまとめてくれている。


 だから、影響は少ないとギードは推測した。


「わかりました。クイナさんに女性陣の統率をお願いしましょう」


「ありがと」


「それでイローナさんはどこに行くつもりなんですか?」


「ちょっとね……こっちに向かってる知り合いに会いに行ってくるわ」


「知り合いですか……」


「昔のね。なんともなければ戻ってくるわ」


 イローナはそう言って去っていった。


「仕方ないですね」


 女性陣をしっかり率いてくれていた惜しい人材だ。


 止めることもできただろうが、イローナが抜けた後のことまで用意されれば、止めることも難しい。


 ここは軍隊ではないのだ。


 各々の意志で集まっている集団に過ぎない。


 離れていく者を拘束しておくこともできないのだ。


「まあ、クイナさんが引き継いでくれるようなので、良しとしましょう」


 ギードは頭を切り替えて自分の持ち場に向かった。

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