第219話 雇用者
「出てきたな」
琉海たちが宿泊している安宿を見渡すことができる屋根の上からグライハルト・ハイルマンと護衛の男が眺めていた。
グライハルトたちがいる場所から安宿までを見渡すには明るくないと難しい距離だった。
今は真夜中。
本来なら、琉海が宿から出てきた姿も見えない。
しかし、グライハルトたちにははっきりと視界に捉えていた。
それを可能にしているのは魔道具だった。
グライハルトと護衛の男の手に筒状の物が握られている。
その筒を覗くことで昼間のように辺りを確認できた。
「さすが、エルフが作った魔道具ですね」
「最近、エルフの村から徴収したみたいだからな。俺らが有効活用してやらないとな」
グライハルトは口角を上げて笑った。
「さて、あの男には痛い目を見てもらおうか」
グライハルトの頭の中では琉海たちが這いつくばって見逃してほしいと懇願する姿が浮かんでいるだろう。
それだけ自信のある腕っ節が強い者たちを揃えていた。
しかし、近くにいた護衛の男――ボレガスは一抹の不安を抱いていた。
グライハルトが集めた集団は帝都にある酒場にたむろっている奴らだ。
金さえ払えば、どんなことでも請け負う傭兵集団が集まる酒場。
そこで金に物を言わせて調達した者たちだった。
彼らの戦力はC級冒険者と同等ぐらい。
様々な理由で正規の冒険者ギルドには加入できない者たちだ。
C級冒険者を20人も集めれば、竜殺しや〝帝天十傑〟の暗殺などのような無理難題でなければ、実現可能な戦力だ。
どこかの中堅貴族を殺すのならば、十分な戦力だ。
だが、その戦力であの少年を抑え込めるかと聞かれれば、ボレガスは即答できなかった。
ボレガスはB級冒険者ぐらいには強いと自負している。
その自分が一瞬で意識を刈り取られた。
そんな相手に20人いるとはいえ、C級冒険者程度の強さで通用するのかと思ってしまう。
だから、グライハルトの期待通りに事が進むとは思えていなかった。
不安を抱えつつも戦況を見守るボレガス。
そんなボレガスとは正反対に、自分の望みが叶うことに疑いを持たないグライハルトは笑みを浮かべ、嬉々として魔道具の筒を覗いていた。
ボレガスは万が一のために退路を確認しながら、護衛を続けるのだった。
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