第181話 追及
「これはどういうことか?」
デルクライル子爵の屋敷の応接室でエリがデルクライル子爵を問い詰めていた。
「こ、これはですね……」
デルクライル子爵は額に浮かぶ汗を布で拭い、しどろもどろに口を動かしていた。
「この状況が続くようだと暴動が起きても可笑しくない」
エリが鋭い視線を向けると、デルクライル子爵の肩がびくッと跳ねる。
視線からどうするつもりかという意図は伝わったのか、デルクライル子爵の震える口が動いた。
「あ、あれらは、暴動など起こす度胸は持ち合わせておりませんよ。それに万が一、暴動が起きても鎮圧のための兵は用意してあります。し、心配には及びません」
デルクライル子爵を心配しているわけではないエリは内心でため息を吐いた。
せっかく占領することができた領土を血の海にする気なのかと言いたいが、口には出さなかった。
口を出せば反感を買うのは目に見えている。
さすがに表立って怒ることはないだろう。
〝帝天十傑〟への畏怖は滅ぼされたイラス王国よりもルダマン帝国内の貴族の方が怖さを知っている分、畏怖の念が大きいからだ。
しかし、領土の統治内容に口を出し過ぎるとさすがに軋轢も生まれる。
貴族は見栄と誇りで生きているような人種であり、仲間意識も高い。
貴族が徒党を組めば、〝帝天十傑〟の誰かを動かすこともできるだろう。
そうなれば、〝帝天十傑〟とやり合うことになる可能性もある。
〝剣帝〟とはいえ他の〝帝天十傑〟と争うことは避けたい。
軍事なら最高権力を持つ〝帝天十傑〟として手の出しようもあるが、現状は政治の段階だ。
(ここは注意で留めるしかないわね……)
「そう。わかった。ただし、この状況は帝都に報告しておく」
デルクライル子爵は表情を歪めたが、それも一瞬のことですぐに笑みをり付ける。
「は、はい。承知しました」
深々と頭を下げるデルクライル子爵にエリは内心でもう一度ため息を吐き、デルクライル子爵の屋敷を出た。
「あれで改善されるでしょうかね」
屋敷からの帰り道で同行していたスレイカがエリに聞いてくる。
「無理だろう」
むしろ、暴動に発展させようとしている節があるぐらいように感じる。
「明日の出発の予定はどうしますか?」
予定通りこの町を発った後に暴動が起これば、再びここへ来ることになる。
暴動でこの町のどれだけの数の血が流れるだろうか。
危惧しているのはそれだけではなかった。
暴動が起きれば、他の町の元イラス王国民も発憤することになると予想できる。
そうなれば、内乱の始まりだ。
ここまで盤面が推測できるのに見て見ぬふりをするのも馬鹿らしい。
ただ、デルクライル子爵も同じ思考を持っているかは疑問が残る。
あまりにも不安定な状況にエリは深く息を吐いてから、明日は予定通りに出発することと、もう一つ命令を下した。
一瞬、スレイカの表情は曇ったが、それが最善と判断できたのか頷いた。
「承知しました。そのようにします」
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