第102話 おとぎ話と現実
王都の中央。
王宮近くのコロシアムでドラゴンと戦闘を繰り広げる少年の姿がそこにあった。
両手に二本の剣を携え、数多の連撃を繰り出す。
それは苛烈だった。
幾重もの甲高い音がコロシアム内に響かせる。
ドラゴンも衝撃で体を怯ませるが、ただそれだけ。
ドラゴンの躰には傷ひとつなかった。
再び、果敢に攻めようとした琉海だったが、ドラゴンより先に琉海の剣が先に限界を迎えてしまう。
《創造》をまだ扱いきれていないことを実感させられた。
その隙を魔薬に侵された三人が襲いかかってくる。
判断は一瞬。
深追いせず、回避に専念して後退する。
三人もドラゴンの守護者のように琉海を追おうとはせず、ドラゴンの間合いの範囲内で動きを止める。
一連の戦いを王宮の上階から眺めているのは、王女であるクレイシア。
王族なのだから、真っ先に避難させられているはずなのだが、クレイシアは琉海の戦いに見惚れていた。
ドラゴンに立ち向かう少年。
それも1人で。
まるで悪いドラゴンに挑む勇者のよう。
お伽話のような光景がそこにはあった。
クレイシアはその光景に夢中になる。
「すごいわ……」
そして、夢見る乙女は初めて小さな恋心を覚えた。
まだ、恋慕するほどのものではない。
勇者に恋をするお姫様というお伽話のような構図に酔っているのかもしれない。
それでも彼女の頬は赤みを帯び、口元は笑みを浮かべていた。
***
グランゾアは琉海の戦いぶりを間近で見て、呆気に取られていた。
視覚では追いきれない速さに加え、ドラゴンを怯ませるほどのパワー。
どこから生み出しているのかわからない数々の武器。
さっきまでの試合がお遊びのようだ。
グランゾアは自分が今見ている光景が現実のものであると理解するのに、時間がかかった。
ただただ、茫然と眺めるだけ。
それもそうだろう。
ドラゴンとは、数千人規模の大隊で戦ってなんとか退けられる相手。
倒すことは人間ではほぼ不可能と言える。
倒せるのは、選ばれた者。
いわゆる、勇者と呼ばれる存在たちだ。
だが、勇者といえども少数の集団(パーティー)を組んでやっと倒せるぐらい。
こんな一人で果敢に挑むのは、おとぎ話の世界だけだ。
琉海が再び、攻めに転じる。
琉海が目指すはドラゴンではなく、人間の三人だった。
あの三人がなぜドラゴンと共にいるのかわからないが、今はそんなことは些末なことだった。
琉海の動きを捉えることのできない敵三人。
グランゾアもその中の一人だった。
グランゾアの力量では、現象が起きたことを確認できるだけ。
三人が突然、三方に吹っ飛んだ。
だが、その過程がグランゾアには見ない。
すでに、グランゾアの入れる領域ではなかった。
それでも加勢はできると思った。
いままでの経験がそれを裏打ちしている。
《剣王》と呼ばれている自負もある。
グランゾアは自分の愛剣に魔力を纏わせた。
高等技術の
武器に魔力が付与され、数倍の強度と切れ味を実現できる。
そして、さらに魔力の性質変化を行う。
ただの魔力を属性変化させるのだ。
グランゾアが選んだ属性は風。
剣に風が纏い、切れ味をさらに数倍へ。
グランゾアはそれを一気に振り下ろした。
狙いはドラゴン。
剣に帯びていた風の刃がドラゴンに向かって飛ぶ。
風の属性を選んだのは、遠距離からの攻撃で最も威力の軽減が少ない属性だからだ。
だが、その風も虚しく、ドラゴンの頬の鱗にぶつかると弾けてしまった。
石壁も両断できるほどの威力を誇っているはずなのだが、ドラゴンには通用しなかった。
「く、くそ……ダメか……」
グランゾアは苦虫を噛み潰したかのように歪め、毒づく。
グランゾアとて、ドラゴンと戦うのは生まれてはじめて。
硬いと噂されていても自分ならと思ってしまった。
だが、そんな幻想は悉く打ち砕かれた。
グランゾアが精神的ダメージを負っていると、ドラゴンの視線がグランゾアに移動した。
さっきの攻撃で注意を向かせてしまったようだ。
「ひッ…………!?」
ドラゴンの眼力にグランゾアは恐怖を植え付けられ、怯えが声に出てしまった。
過剰な恐怖に支配されては、もう戦うことはできない。
ドラゴンはハエでも叩くかのように尻尾を振った。
グランゾアは恐怖で足が動かない。
尻尾はズシンっと重々しい音を響かせた。
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