第101話 暗躍の裏側
「はははははははッ! まさかドラゴンになるとは。かなりの逸材だったようだね」
コロシアムの外壁の上に立ち、琉海とドラゴンの戦う様子と見下ろすフードの男。
「いままでの傾向からして、何かしら起きるとは思っていたが、上々の実験成果だ。礼を言うよ。レイモンド・ディバル。もう、礼を言う機会はないと思うけど」
咆哮を天に向かって放つドラゴンにそう言い、フードの男はローブを翻して、会場の外壁から外へと飛び降りた。
「彼はここで討伐されるだろうからね」
フードの男は「残念だけど」と呟き、地面に着地した。
ドラゴンが強さは、長き時代を生きているほど強いとされている。
長きに渡る膨大な戦いの経験と、長い年月により磨かれた知恵や技や力があるからだ。
だが、あそこにいるのは、いま生まれたばかりの雛ドラゴンと同じ。
図体だけデカい雛ドラゴン。
人間だった頃の経験や記憶で多少の抵抗はできるだろうが、この世界に存在する成熟したドラゴンとは比較にならないほど弱い。
人間の時の記憶も時間が経つに連れて失い、最後は本能のみで動く魔物となるだろう。
フードの男はもうここには用がないのか後ろを振り返ることなく、避難しようとしている雑踏に紛れ込み、姿を消した。
***
静華とエアリスは廊下を走っていた。
もう、上流の貴族たちは避難が済んでいるのか、閑散としていた。
二人は、琉海のいる会場中央の舞台に向かっている。
何ができるかわからないけど力になれることがあるだろうと、静華は歩みを進めていると、エアリスが足を止めた。
静華も止まり、振り返る。
「エアリス、どうしたの?」
エアリスは壁を見つめていた。
だが、壁を見ているわけではなさそうだ。
それは雰囲気でしかなかったけど、エアリスは別の何かを視ているように感じた。
「どうしたの?」
エアリスにもう一度問いかける。
すると、エアリスは静華のほうに顔を向けた。
「シズカ、あっちはルイに任せて、私たちはこっちを追ったほうがいいかもしれないわ」
エアリスが指を差したのは、壁。
エアリスが言いたいのは、そっちに何かあるということなのだろう。
「何があるの?」
「わからないわ。けど、今を逃したら、見つけられなくなると思う。たぶん、この状況を生み出した元凶だと思うわ」
エアリスが真剣な表情でそう言う。
この状況の元凶。
つまり、ドラゴンを呼び出した者がいるということだ。
数舜で状況と取るべき行動を考え、答えを出す。
「わかったわ。私たちで追いましょう」
エアリスの言い方からして、琉海の元へ行き一緒にドラゴンを倒してからでは、遅いのだろう。
元凶を捕まえるまではいかなくても、足止めぐらいはする必要があるだろう。
「エアリス、案内をお願い」
「わかったわ。こっちよ」
エアリスが先頭を走り、静華がそのあとを追う。
しばらくして二人は会場の外に出た。
外は避難する人たちで混雑しており、道は人でごった返している。
「あそこから行くわ」
エアリスは建物の屋根の上に跳ぶ。
「そこから行くの?」
「ここぐらいしか道はないわ」
エアリスに言われ、静華は強化魔法を使って跳ぶ。
コロシアムの外壁を超えるのは、無理だが静華でも2、3メートルぐらいの跳躍ならできる。
「こっちよ」
エアリスの先導に従い、静華は屋根の上を駆けていく。
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