第31話 不穏な来店者

 宿に戻るとミリアが出迎えてくれた。


「おかえり!」


「ただいま」


「町の散策はどうだった? ギルドはすごかったでしょ」


「ギルドは色々とすごかったかな」


 特に職員の人が。


 琉海は口には出さず、会話を続けた。


「町の人はいい人で助かったよ」


「そうなんだ。よかった。この後は、どうする? 夕ご飯ならもうできると思うけど」


「じゃあ、食べようかな」


「ここの席に座って待ってて」


 ミリアは空いている席に琉海を案内し、キッチンへ向かった。


 少しすると、料理を持ってやってきた。


「今日も美味しそうだね」


「そうでしょ。私も少し手伝ったんだよ」


 ミリアはそう言って、琉海の前に料理を並べる。


 献立は肉野菜炒めと大皿に乗った魚。


 それとスープが付いてきた。


 白米が欲しくなる献立だが、残念ながら白米はない。


「いただきます」


 琉海は木製のスプーンでスープを口に入れる。


 優しい味わいが広がり、さまざまな材料から取り出した出汁が味に深みを生んでいた。


「うん、美味しい」


 琉海はその後も食べ進めていく。


 それをミリアは嬉しそうに眺めていた。


 すると、扉が開く音が聞こえてきた。


 客だろうか。


「いらっしゃいませ」


 ミリアがすぐに入り口に出迎えにいく。


「ここでいいんじゃないか……」


「ははは、俺は飯と酒が飲めればどこでもいいぜ」


「俺は女が欲しい――おっ、いい女がいるじゃねえか」


 青い髪の男、黄色の髪の男、緑の髪の男と頭髪が特徴的な三人の男たちが来店した。


 三人の男の中で下卑た顔でミリアの全身を視線で舐め回す者がいた。


 緑髪の男だ。


「おい、どけ」


 そんな三人を割って入ってきたのは、赤髪の男。


 乱暴な言葉で喋るが三人の男たちとは剣呑な空気にならなかった。


 この男も三人と仲間なのだろう。


「さっさと飯にすっぞ!」


 赤髪の男が先陣を歩きドカッと席に座った。


 他の三人も追随するように空いている席に腰を下ろした。


 雰囲気から赤髪の男がリーダーなのかもしれない。


 座った後も緑の男はずっとミリアを視線で追っていた。


「えっと、ご注文は何にしますか?」


 ミリアが仕事を全うするために声をかける。


「俺は君が欲しいな」


「うちはそういうお店ではないので、すみません」


 ミリアが丁重に断るが、緑の男の顔から笑みは消えない。


「なるほど、君はそういう風に断わるタイプか」


 意味深なことを言うも、目線はミリアから外そうとしなかった。


「酒だ。それと、飯だ。肉を出せ! 金ならある! どんどん持ってこい!」


 赤髪の男が適当に注文する。


「かしこまりました」


 ミリアは一礼してからその席から離れて、キッチンに注文を伝えに行った。


 この柄の悪そうな四人組が来てから、他の客は居心地が悪くなったのか、徐々に引いて行ってしまう。


 閑散としはじめる食堂。


 逃げ遅れ、食べている者は端の席で食事をしている。


 その席から小さい声で話声が聞こえてきた。


 琉海はそちらに耳を傾ける。


 精霊術を使って聴覚を強化して、会話を盗み聞きした。


「あいつら、例の冒険者グループだよな」


「ああ、隣町でC級グループだからって威張り散らしている冒険者だろ」


「下手に力があるせいか、冒険者ギルドもあまり強く言えないらしいからな」


「他にも悪い噂は山ほどあるけど、こいつらなんでこの町に来やがったんだ」


「さあな、俺たちも目を付けられる前にこの町から離れた方がいいかもな」


 小さな声で会話をしている二人は席を離れるタイミングを伺っているようだ。


(なるほど、あの四人組は柄の悪い不良冒険者か)


 面倒なことになったなと琉海は嘆息する。


 そういえば、中学のとき、不良集団と乱闘になったことがあったなと、現状とは全く関係ないことを思い出す。


「おい、まだかよ!」


 待ちきれなくなったのか、大声で叫ぶ四人組の一人。


 黄色の髪でツリ目の男だ。


「は、はい。只今お持ちします!」


 ミリアが急ぎ足でお酒や料理を運ぶ。


 大きめの丸テーブルに料理が並べられた。


 所狭しと並ぶ料理。


「ご注文は以上でよろしいでしょうか」


 ミリアの言葉など聞かず、料理と酒を貪りはじめる男たち。


「ご、ごゆっくりどうぞ」


 一言残して、ミリアは席から離れた。

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