私に触れないで

「だれとつみとった。そのあかいくびを、契っては、恋を叶えたの。」


乾涸びたさざ波の風雪と 熱病に曝され熔けて言った

(萌ゆる焚き木と燻り、さるシビトの唇を湿らせる)

時は刻まれ続け 母船の数だけあり ふれた水平線を擁く

(打ち上げられた花殻は海月みたいなワンピースと)

いまもって深き湖には胡蝶が螺旋と続き華々しく唄い咲く

差し伸べた 光の眼差しから 野茨の弦が延びた先に

自然にわらう。あたたかな陽射し うたかたにあり


おやゆび姫がそこに落ちていた、ぽかんとしていた

なんて 秋桜のほほえみ、ただのひとりぼっちの

未だ早起きの薄闇に誰かを待っていたかのような

可愛らしく可哀想な姿も、そこはもう空っぽなんだけど

花占いは叶わないって 立て札、ひとりでにいる道標に挙げ

潤白 ビオトープ / 荒れ果て 自然に還っていった。


(それが摂理だと知っていても尚、まだ夢を見せてあげたい)

爪紅の長月、底に秘され先に乱れもうすぐに秋と遺された絆痕

盆の宵にみたす幻奏がないて、鈴を転がした いたいけない君と

だきとめた耳もとのざわめきが (鳳仙花の仄影に過ぎないとでも)


何時ぞやの夏に擱いて、凡て亡くしたと、嗄れたと言うのに

徒花すら捧げられない、この廃園を愛していたから

毎年のようにあたりまえに季節が巡ってくる

幼少に描いた落書きの淵に掛ける記憶の鍵はラッキーナンバーと

四葉のクローバの栞を似せた君の琥珀(アンバー)だったとしても


(小さな花がくすねた、すこしの恋の行方は

摘み取られたかいなだけが知っている)




ココア共和国9月号電子版佳作集Ⅲ掲載

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る