第50話 狂い始める帝国の計画、岸田の誤算 2
「だけどよ、あの宮殿の中にいるのは一体誰だ? あんな強力な女神の加護を持ってるってタダの加護持ちじゃなくて、オレ様と同じ勇者じゃねえかと思うんだよな」
女王であるセトロベイーナ三世がいるこの国の宮殿内には強力な女神の加護を持っているだけではなく、女神が選んだ勇者の証である
「でもー、ちゃんこはフィスフェレムに負けてボコられて死んでるような状態だって、オッサンが言ってなかったー? ねーオッサン?」
「……? チャ……チャンコ……? 誰だ?」
ちゃんこと呼ばれている人間が本気で分からなかったからだろう。
「いやいや、リカ! ちゃんこって、元の世界であーし達が
「あ、ああ……勇者オーゼキの事か……確かにとても戦える状態ではないはずだ」
「……じゃあ、一体誰なんだ? リカとアヤノのあの攻撃、他の国の連中には防がれた事すら無かったのによ。しかも、今回は防がれただけじゃねえ、リカとアヤノを殺す目的でワザと跳ね返して来やがった」
岸田の読みはほとんど当たっていた。
五十嵐と園部の女神の加護を合わせた遠距離攻撃、必中の魔法の矢を防げる人間は同じ女神の加護を持った人間で無ければ出来ない。
なので、宮殿内にいたのは女神の加護を持った人間という読みは当たっている。
そしてその女神の加護を持った人間は、矢を放った五十嵐目掛けて矢を跳ね返していたので、五十嵐とその近くにいた園部を殺すつもりでワザと跳ね返して来たという読みも当たっている。
だが、一番重要である宮殿内にいる女神の加護を持った人間は誰なのか? という事までは読めなかったようだ。
更に残念な事に、内通者である領主の情報に加え、女神に余り物扱いされたジンはとっくに死んでいるという先入観のせいで、これから先も岸田達はジンに計画を邪魔され続けるのだが、自分達の計画を邪魔しているのは、ジン……元クラスメイトの
そんな事に岸田は気付かず、内通者の領主へ心当たりは無いかと聞いてしまう。
この質問が、アルラギア帝国の計画を狂わせ始めるとも知らずに。
そして、順風満帆だったはずの異世界ライフが地獄へと変わっていってしまうとも気付かずに。
「なあオッサン? 本当に心当たりねえのか? そいつのせいで、オレ様達の仲間が一人死んでいるしよぉ……足止めを頼んだ仲間二人も帰って来ねえ事を考えると、もしかしたら捕まっているかもしれねえだろ?」
「……」
急に領主のオッサンが黙りやがった。
あ? このオッサン隠し事あったのか?
「アハハ! ユースケ、あのパシリの事仲間だと思ってたんだ? マジウケる!」
「バーカ。そんな訳無いっての。それならウチらを守る為にパシリを盾にするなんて事しないっしょ? ねーユースケ?」
「そ、そうだな……」
バカ笑いしている二人を適当にあしらう。
……ったくよ、死にかけたってのに呑気なもんだぜ……アヤノもリカもよ……。
宮殿では殺される! とかビビってたクセになぁ……。
本当にこの二人とパーティー組んでいて良いのか? と時々心配になっちまうよ……。
はぁ……
リカはともかく、アヤノはオレ様だけじゃ手に負える気がしねぇ……。
それになぁ……。
アルラギアに帰るにしても、どうして計画が失敗したのかはちゃんと説明する必要があるんだろうな。
失敗しました! だけじゃ帝王様に怒られるっつーの……怒られるのはオレ様なんだぞ……ったくよ……。
頼むから情報くれよ……とオッサンにオレ様は祈る。
オッサンの失敗に目を瞑って、殺さないでやったんだから、恩返し頼むぞ……。
「……そんな事は出来る訳無いと思っていたのだが、まさか女王はボルチオール王国の勇者パーティーを連れてくる事に成功したのか?」
「あ? 何だ、オッサン? 知ってる事があるんなら言えよ?」
「……いや、女王が隣国のボルチオール王国に親書を出して、ボルチオールの勇者パーティーにフィスフェレムを討伐して貰おうとしていたんだ……。そんな事、ボルチオールの王が了承すると思うか?」
ボルチオール王国?
また、聞いた事ねえ国だな。
しかも、勇者パーティーってどういう事だ?
「ボルチオール? ってどこだ? オッサン」
「この国の西側にある隣国だ。女神の剣を持った勇者がいる。あくまで私の知り合いから聞いた信憑性の無い話だが、名はワタナベ・ケントというらしい。そんな変な名前の勇者がいると思うか?」
「……」
オッサンのバカさに、オレ様も呆れて思わず黙っちまったぜ。
女神の剣を持っているって時点で、この世界の人間じゃねえんだからよ……オレ様達がいた世界の人間なんだから、この世界の人間と同じ様な名前な訳ねえだろ……。
……あ? ワタナベ……ケント?
「あれー? ワタナベケントって聞いた事ない? よく先生に怒られてたよね?」
「てか、ユースケと同じ中学だったヤツじゃ無かった? ユースケが中学の時からバカのクセに良く受かったな……って呆れてたの覚えてる」
「あぁ……そうだ。アイツか……」
リカとアヤノの言葉で完全に思い出した。
あの運動も勉強も出来ねえ七三分けか……。
ケッ、元の世界じゃダメダメだったクセに生意気にもオレ様達を追い返すなんて、まるでアニメじゃねえか。
ま……良いか。
あの七三なら、怖さは半減だな。
「おい、オッサン。ひとまずそのボルチオール王国の勇者についての話を聞かせてくれよ?」
とはいえ、油断はダメだな。
オッサンから話を聞いた後、アルラギアに戻って帝王様に報告してから、しっかり対策するか……。
それからでも遅くねえよな。
……岸田のこの判断、そして自分達を追い返した人間がボルチオール王国の勇者である
まだそれは先の話。
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