第388話・美しさと自信

プリームスが目覚めて暫くしても、一切屋敷の侍女達がお伺いにピスティの部屋へ来ることが無かった。

不思議に思い尋ねると、

「プリームス様の御世話は私が全て仰せつかっているので、私一人で手に余る事以外は侍女を呼ぶことはありませんよ」

そう笑顔でピスティは告げる。



「そ、そうか・・・」

特に咎める事も無いので、プリームスは相槌を打つしかない。

しかしピスティが・・・否、ノイモンがそうさせているのは、親睦を深める為に邪魔が入らぬよう気遣った所為だろうとプリームスは気付いてはいた。



こうして寝起きの湯浴みを昨夜と同じく2人きりで済ませ、今は本日着る為の衣装選びだ。

因みにプリームスは、さっさと収納魔道具に仕舞ってあった漆黒のドレスを身に着けていた。


これは武術着を基礎にした衣装になっていて、腰まである深い切れ込みと袖の無い腕周りが扇情さを演出しピスティは目を見張る。

だがそれ以上にピスティを驚かせたのは、何も無い所からドレスが出現した事だった。



無駄に驚かせてしまい申し訳なく思ったプリームスは、端的に説明をした。

「この指輪から出したのだが・・・まぁ所謂、収納魔道具と言う奴だよ。分かっているとは思うが、他言は無用だぞ」



「しょ、承知いたしました!」

ピスティは直ぐに理解する。

本来なら持ち運べる大きさの収納魔道具など有る訳も無く、それを指輪などと言う小さな物でプリームスは持ち歩いているのだから尋常ではない。

他者に知られれば、この指輪を奪おうとする者が必ず現れプリームスは命の危険に晒されるだろう。



「この指輪は私の身内の殆どが所有している。お主が只の傍仕えでは無く、完全な私の身内になると言うなら与えてやっても構わんぞ」



再び驚愕してしまうピスティ。

神器にも等しい魔道具が幾つも有り、それを他者へ渡す余裕がまだ有るのだと言うのだから・・・。


『本当に規格外・・・超絶然としてらっしゃいます。私などが傍に居て良いのやら・・・』

畏怖から敬愛に変わっていた気持ちが、また畏怖に戻ってピスティは気持ちが落ち込む。

己がプリームスを理解出来たと勘違いして、自惚れていたことに気付いた所為だ。



故にピスティは神器を受け取るだけの器量が無いと判断した。

「お申しで非常に有難いのですが・・・そのような神器級の魔道具は”今”の私には相応しくありません。ご容赦下さいませ・・・」



堅苦しく丁重に断られてプリームスは苦笑いを浮かべる。

「もう少し軽く考えてくれても構わんのだがね。まぁそこがピスティの個性であり良い所なのだろうが・・・」

と諦めたように言った後、ベッドの上に指輪から取り出した衣服を並べ始めた。


それらは余り見た事の無い意匠の物で、少しくすんだ黒の上下と恐らくお揃いと思われる黒の上着であった。



「ピスティは淡い緑の髪の色をしているから濃すぎず、くすんだ黒の方が似合うと思って選んでみた。私の傍仕えで侍女然とした格好でも構わんのだが・・・私的に楽しくないのでなぁ~」

などと言ってプリームスはピスティの服を脱がそうとする。



「お、お待ちください! 自分で出来ますから!」

と拒否の意思を示しても行動に出せず、ピスティはプリームスの成すがままだ。


朝の湯浴みを済ませてローブ姿のピスティは、中に下着を身に着けておらず、ひん剥かれれば真っ裸である。

結果、ひん剥かれて恥ずかしくなり屈み込みそうになった。

しかし何時の間にかプリームスはピスティの下着を手に持っており、それを穿かせようと先に屈まれてしまう。



世話する筈が世話されてしまい、しかも一国の王に下着を穿かせられる状況・・・恐れ多くて泣きそうになる。

『でもプリームス様のご厚意を無下には出来無し・・・うぅ・・・』

と半泣きになって、ピスティは恥ずかしさと畏れ多さに耐えるのであった。






「おお~、中々似合うではないか」

と結局服まで着せられて、プリームスに褒められるピスティ。



上は裾の短いキャミソールでヘソだけでなく、鍛えられた腹筋が良く見える。

下は7分丈のピッチりしたズボンで、外側側面が下から上まで完全に開いており、それを赤い紐で同じく下から上まで結って止めている意匠だ。

その為、非常に露出度が高く見え、身体の線が美しいのも相まって女性特有の肉感さを見る者に感じさせた。



今までこれほどに凝った意匠で、しかも露出度が高い物を着た事が無いピスティは戸惑いを隠せない。

そして自信無さげに己を見て、プリームスへ告げる。

「あぅ・・・何だか凄く心許無いのですが・・・。それにこれ程肌を出しては、他の方のお目汚しになるのでは・・・」



「ま~だそんな事を言っておるのか?! お主は十分に綺麗だ、この私の事を信用して自信を持て!」

そう言ってプリームスはピスティのお尻をパーンッと平手で叩いた。



「ヒャッ!?」と声を上げてたピスティは、その甲斐あってか背筋が伸び・・・否、仕方なしにそうなったが、

「えっ!? これがわたしなのですか・・・?」

そう呆然と姿見に写る自身を見て呟く。



その姿はスラリと背が高くて美しく、非番で私的な恰好をする女騎士・・・そんな風に思えてしまった。

自分でそう思ってピスティは赤面するが、お構いなしにプリームスは言った。

「お主はもっと自己主張すべきだ。こんなにも凛々しくて美しいのに・・・。と言う訳で最後にこれを着て女らしさを強調しよう!」



ピスティは上着を羽織らされたのだが、着た瞬間に起きた異変でビックリしてしまう。

「!?・・・何だかひんやりとして・・・とても着心地が良いです!」

どうやら魔法付加がされているようで、僅かに冷気を発しているのだった。


更に裾の長さが腰より上で非常に短いのだが、魔法付加の効果か、薄く透き通る布状の物が下に向けて伸びて、まるでコートの様相を見せた。



「ふむ・・・やはり髪の毛と同じ薄い緑色になったな。その伸びた裾はだな、ピスティの魔力を得て顕現した物だ。そこからも冷気が出て涼しいだろう?」

そうプリームスは、ピスティの背後から姿見を見据えて言った。



「は、はい・・・とっても涼しいです」



その反応を由と見たのか、プリームスは楽しそうな表情で説明を続ける。

「この装備は昔、部下に支給したものでな・・・服の衣装設計から魔法付加まで全て私がしたのだぞ。目的は様相の統一も有るが、健康管理も含めて気候や季節に左右されず過ごし易くしたかったからだ。因みに気温が低ければ暖気を発するので季節と場所を選ばんぞ」



部下に支給すると言う事は大量に作る訳で、それがこの魔法の装備ともなると常軌を逸しているとか思えなかった。

しかも2つ以上の魔法効果が付加された装備とは・・・一級品を超えて伝説級である。



「で、どうだ? 今の自分の姿を見て、これでも他人に憚るようなものだと言えるか?」

プリームスにそう問われ、ピスティは小さく首を横に振った。



姿見に写る自分は、まるで別人のように凛々しく、そして女らしく美しかったのだ。

「いえ・・・プリームス様の言われる通り、私は自分自身を見損なっていいたのでしょう。これで漸く人並みに自信が持てた気がします」



「やれやれ、これで人並みとは・・・先が思いやられそうだ」

そうぼやくプリームスではあるが、予想以上に美しく変わったピスティに満足げでもあった。


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