第387話・聖女陛下のお目付け役
「不承の身ですが、どうぞお傍に置いて下さいませ」
ピスティは父であるノイモンと袂を別け、プリームスの傘下に下る事を選んだ。
それを聞いたプリームスは嬉しそうな表情を浮かべたかと思うと、突然ピスティに抱きつき、
「そうか! ならこの身体は今後、私の好きにしても良いと言う事だな!」
などと突拍子も無い事を言い出す。
「ええぇぇ!?」と声を上げて驚くピスティ。
「なんだ? そう言った教育は受けておらんのか?」
所謂、夜の営み・・・睦事を言っているのだが、プリームスの言い様は何とも情緒が無い。
するとモジモジしながらピスティは答えた。
「え~と・・・一応教えられています。自分でも、その・・・興味があって色々書物で調べたりとか」
「なら問題ない」
そう言い放ってプリームスはピスティの手を引き、ベッドへ向かった。
なし崩しでプリームスと夜を過ごす事になったが、常識的に考えて男女でする行為である。
女性同士で・・・と思うだけでピスティは戸惑い、聖女陛下の相手を自分がする事に畏れ多く不安が増すばかりだ。
そうこうしている内にベッドへ横にされて、更にピスティへ馬乗りになるプリームス。
自然と見上げる形になり、開(はだ)けかかった寝巻きの隙間から、白く美しいプリームスの肉体が顔を覗かせた。
見惚れてしまったピスティは、これには抗えないと諦め、同時に自身の中で淫らな思いが湧き起こるの感じる。
自分で分析するに、そう言った欲は人並みに有ると考えていた。
いや・・・自身を律し抑制された人生を送ってきた為、下手をすれば人並み以上に強いかもしれない。
だからこれは自然な人の情動なのだと、ピスティは自身に言い聞かせる。
ただ初めての相手が女性で、しかも一国の主でかつ絶世の美を持つプリームスなのだ。
非常に敷居が高い感は否めない。
どうすれば良いのか色々躊躇っていると、プリームスが徐に身を寄せ迫って来た。
「えっ!?」
と面を食らったかのように、ピスティは驚いた声を漏らす。
プリームスはピスティの胸にうつ伏せで寄り掛かったかと思うと、そのまま寝息を立て始めたのだった。
『そう言えば食事を済ませて直ぐに、眠気を催して居られましたし・・・お疲れだったのですね』
そう呟くとピスティは深い溜息をついた。
戸惑っていたとは言え十二分に"期待"して、肩透かしならぬ御預けを食らったからだ。
ピスティは少しの間、寄り掛かる主の重みと温かさを堪能する。
そして何とか自身を満足させプリームスをベッドへ横たえた後、乱れた寝巻きを整えた。
そして子供の様に無防備な寝姿を見て思う。
『出会ってまだ僅かだけど、プリームス様との時間は何と濃密なことか・・・。それに私の人生と価値観が大きく変わってしまったわ』
それはプリームスが成した事であり、自分一人では決して起こる変化では無い。
そもそも変えられる物だと考えもしなかった。
父に決められた人生を歩み、定められた使命を全うする・・・それがピスティの全てと思い込んでいたのだ。
『この方と共にあれば、私はもっと変わる事が出来る・・・』
まだ漠然としていて確証は無いが、プリームスから受ける影響はきっと良い事で幸福に繋がると感じるのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
カーテンの隙間から僅かに差し込む光の刺激で、プリームスは自然と目を覚ました。
昨日の飲酒の所為か身体が気怠く、もう少し眠っていたいと愚図る様に身じろぎをする。
すると自分が誰かと抱き合って事に気付く。
『あ・・・確かピスティの部屋で・・・。何時の間にか眠っていたのだな』
朧げな記憶から相手がピスティだと思い出す。
何より今まで触れ合った事の無い感触が身体を包み、特徴的だった為でもある。
「ありゃ? 真っ裸ではないか・・・」
と、つい声を出して呟いてしまう。
寝相が悪いのか寝間着が完全に脱げて、2人とも裸で抱き合っていたのだった。
その声に気付き目を覚ましたのか、
「お目覚めでしたか、聖女陛下・・・。あっ・・・え~とプリームス様」
条件反射の様に口走ってしまった事を慌てて訂正する。
プリームスがその呼び方を良く思って居ないからだ。
「おはよう・・・」
そう言ってプリームスは苦笑した後、ピスティに優しく口付けをした。
急にされて驚きはしたが、プリームスの優しさが自身を覆った様に感じ幸福感に満たされる。
また愛し合う恋人同士ならこれが普通なのだろう・・・と思い、嬉しさと慣れない感覚で身悶えしそうになるピスティ。
だから少しモジモジと照れながら「おはようございます・・・」、そう返すのが精一杯だった。
「フフフ・・・照れ屋さんで、しかも少しお主は御堅いな。私だけでなく他の者にも何時もそうなのか?」
ピスティを気にいったのか、プリームスはその身体をスリスリと堪能するように擦りながら問う。
「いえ、その様な事は・・・。実は御父様からプリームス様の不興を絶対買うなと言われていて、ですので出来うる限り丁重にプリームス様へ接しておりました」
と語るピスティも満更では無い様子で、少し身悶えしつつも全く抵抗する素振りを見せない。
「そうか・・・つまり何としても私に取り入りたかった訳だな」
その言葉を発した直後、プリームスは突然身を翻しピスティの上に馬乗りになった。
ピスティの脳裏に昨夜の続きが始まるのかと少し期待したが、随分と色気の無い状況に変化する。
「アンビティオーとの縁談が無くなり、予定していた計画も頓挫したが・・・丁度その後に危険視される存在が現れた。あのアンビティオーをもが”警戒する”この私がね」
そこまで言ったプリームスはピスティの両肩を押さえ、身動きできない様にして続けた。
「つまり目的を切り替え、お主を私の傍仕えと名目を立てて監視することにした・・・であろう? 観念して全て答えるが良い」
プリームスは威圧的に振舞ったつもりなのだろうが、押さえられた両肩は然程力を感じず、まるで子供を相手しているかのようにピスティは感じた。
そして昨日まではその美しさと存在自体に畏怖していたが、プリームスの為人を知り敬愛へと変わる。
故に、「何をしても可愛らしくていらっしゃる・・・」と思ってしまうのだ。
呑気に微笑んでいると、プリームスは焦れてしまい、
「人の顔を見てな〜にをニヤついとるんだ!? さっさと答えぬか!」
と怒り出す始末。
「も、申し訳ありません。え〜と、仰る通りです。お父様からプリームス様の動向を探るよう指示を受けておりました。ですがもう従うつもりはありません・・・私はプリームス様に仕える事に決めたのですから」
ピスティの言葉にプリームスは満足した表情を浮かべた。
「そうか・・・だが、あからさまに態度に出す必要ない。私へのお目付役もとい間者として、あやふやに振る舞って居るとよかろう」
要するに父で有るノイモンへ絶縁状を叩き付ける必要は無いと言っている訳だ。
それは親子の絆を無闇に裂く事を由としない、プリームスの優しさだとピスティは感じたのだった。
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