第379話・ノイモンとプリームス(1)
プリームスが滞在する賓客室に前触れもなく訪れる者が居た。
プリームス等の警護と傍仕えを兼ねた騎士が、
「レクスアリステラ宰相閣下がお見えです。お通しして宜しいでしょうか?」
と扉越しに告げる。
どうやら御供も付けずに単身でプリームスの元に来たようだ。
何か込み入った話でもあるのか・・・それとも何らかの探りを入れに来たのか・・・。
何方にしても無下には出来ない・・・相手はリヒトゲーニウス王国の宰相なのだから。
プリームスは目配せすると、阿吽の呼吸でスキエンティアが良く通る声で答えた。
「どうぞ、お通し下さい」
入室して目の当たりした光景にノイモンは目を丸くする。
プリームス等がダラけにダラけまくっていたからだ。
エテルノはベッドでゴロゴロ、プリームスもソファーで仰向けになって脱力状態。
唯一スキエンティアだけが、背筋を正してソファーに腰掛けている状況だ。
「これは・・・ひょっとして間が悪かったかな?」
と独り言のようにノイモンは呟いた。
プリームス達の寛ぎの一時を邪魔した様な気分になって、つい思いが口を衝いたのだ。
それに
「お気になさらずに、いつもの事です」とスキエンテキア。
「うむ、私の身内は皆、家臣では無く家族の様な物だからな。素行云々でいちいち咎めはせん」
などと一見大物ぶった言い様のプリームスだが・・・家臣を素行で律すれば自身に返って来るのを知っているからだ。
そしてエテルノはと言うと、他国の宰相が来たのに気にせずダラケたまま無言である。
どうしたものかとノイモンが戸惑っていると、
「宰相殿、何用かな?」
そう気遣った様にプリームスから声を掛けた。
「えっ・・・あぁ申し訳ありませぬ・・・。実はですな、プリームス陛下を我が家にご招待したいと思いまして、如何でしょうか?」
ノイモンはおずおずと答えた。
まさかそのような申し出をされるとは思いもしなかったのか、今度はプリームスが、
「えっ・・・」
となり、傍で見ていたスキエンティアが笑いそうになる。
プリームスの反応が予想よりも悪く、ノイモンは少し慌てた様子で付け加えた。
「あ、いえ・・・プリームス陛下には我が王国だけならず、私個人も非常に恩義を感じておりまして、お礼をさせて頂きたいのです」
一瞬だけプリームスはスキエンティアへ視線を送る。
『お前は、この申し出をどう思う・・・?』と暗に言っているのだ。
もしノイモンが良からぬ事を画策していると予測したなら、スキエンティアが何かしら理由を付けて断る筈。
しかしプリームスの最も信頼する忠臣は、
「宰相殿の折角の申し出、お断りするのは礼を失すると言うものです。派兵に関しての軍業務は私共が済ませておきますので、プリームス様は楽しんで来られれば宜しいかと」
と笑顔で言ったのだ。
『楽しむって・・・何を!? そもそも堅苦しい初老と何が嬉しくて一緒せねばならんのだ!』
そんな思いが口から出そうになったが、何とかプリームスは堪えて不服そうな表情をスキエンティアへ向ける。
だがスキエンティアは基本的には無駄な事を好まない効率主義だ。
つまり今回に限ってはノイモンの申し出は安全であり、逆にこちらから干渉して情報を引き出す良い機会だと考えたのかもしれない。
そもそも何故ここまでノイモンを警戒するのか?
それはノイモンが、セルウスレーグヌム王国のアンビティオーと繋がっている可能性があるからだ。
そしてその繋がってしまった原因は、プリームスにあると言えた。
『敵の敵は味方・・・では無く、共通の敵と認識するとは・・・私も随分と危険視されたものだな・・・』
そう思いつつも推測の域をで出ず、洞察に至るにはノイモンと腹を割って話す機会が必要だとも思えてしまう。
溜息が出そうになったがグッと堪えて、
「そうだな・・・では食事と一晩の宿を馳走になるとしようか」
と当り障りのない笑顔と声音でプリームスは告げた。
すると随分と嬉しそうにノイモンは首を垂れた。
「申し出の承諾、有難存じます。プリームス陛下の奉迎が出来るとは、実に光栄の極み・・・では早速、我が屋敷に向かうと致しましょう」
『ううぅ・・・堅苦しい・・・』
以前、魔王であったプリームスは、こう言った対応は慣れっこである。
それでも嫌な物は嫌であり、慣れたからと言って好きになれる物でも無いのだった。
仕方なしにソファーから身を起こし、ノイモンの傍に歩み寄るプリームス。
一方スキエンティアは呑気に茶をすすりつつ、
「こちらの事はお気になさらず、御ゆるりとされるが宜しいです。ノイモン殿、プリームス様の面倒をお願い致しますね」
そう他人事のように告げる。
またエテルノは、相も変わらずベッドでゴロゴロしながら、
「王様~行ってらっしゃ~い。お土産忘れないでね~」
と言う始末・・・正に他人事であった。
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