第368話・根本的な事
プリームスは司令部の何だか偉そうな席に座らされていた。
それは所謂玉座であるが、この司令部の長官席でもあった。
勿論、玉座なだけに重厚感と厳かさに溢れており、柔らかなクッションが座面・背面・肘掛けに施されて実に座り心地が良い。
「フフ・・・中々良いな」
そう呟き座り心地を堪能するプリームスに、イリタビリスは笑いを堪えるのが必死であった。
プリームス自身が可愛らしく、全くもって玉座が似合わなかったからだ。
そうこうしていると、スキアンティア、アグノスと司令部に戻って来た。
そしてプリームスを見るなり驚いた表情を浮かべ、2人して詰め寄る始末。
「もうっ! 心配したんですからね! でも良かった・・・無事に目覚められて・・・」
「漸く目覚めたかと思えば、そうやって直ぐ調子に乗るのですから・・・。また体調を崩して寝込んでも知りませんよ」
2人とも心配してくれているのだろうが、言葉に少々棘がありプリームスは顔をしかめた。
「うぅ~、分かっておる! 自分の足で無理に出歩かんゆえ、心配するな・・・」
それから直ぐにマントを纏いフードを被ったエテルノと、騎士団制服が似合わないフィートがやって来る。
「お! 王様! やっと目覚めたのかい。お寝坊さんだね」
「・・・・プリームス様、ご壮健?で何よりです・・・」
エテルノは吸血鬼なので、日中での暑苦しい恰好は仕方が無い。
しかしながら2人の温度差が見た目とは真逆で、笑いが出てしまうプリームス。
皆それぞれ個性が強く非常に面白い。
そして余り間を置かずしてイースヒースが来たかと思うと、続いてシュネイがインシオンに寄り添って仲睦ましそうに入室する。
プリームスの存在に気付いた2人は慌てて身を離し、
「あ・・・プリームス様、お目覚めでしたか・・・。何だか申し訳ありません、はしたない所をお見せしてしまって・・・」
と謝罪したのはシュネイだ。
一方インシオンは何食わぬ顔で一礼して告げる。
「プリームス様、おはようございます」
この程度の事でプリームスがガタガタ言わないのを知っているからだ。
「フフフ・・・まぁそう堅苦しくするな、私も息が詰まってしまうからな。それよりイースヒース殿も騎士団入りしたのだな?」
そう問いかけられたイースヒースは、着慣れている武闘着では無く白と黒の騎士団制服を身に纏っていたからだ。
「陛下よ・・・俺への敬称は必要無い。イースヒースと呼び捨てにしてくれ。こうして貴女と国を支える中核の一員にして貰えたのだからな」
ここに居る誰よりもイースヒースは不遜な態度で答えた。
弟子であるテユーミアが血相を変える。
「師匠! プリームス様は我ら一族を救った救世主であり、我らが王なのですよ。そのような不敬な物言い容認できません!」
少し鬱陶しそうにテユーミアを見つめ、頭を掻くイースヒース。
「う~む・・・相変わらず小言が多い奴だなぁ・・・。さっきも陛下が言っておったろう?堅苦しくするなと・・・」
火に油を注ぐとは、正にこの事である。
テユーミアは詰め寄ると、立てた人差し指で苦言を呈しながらイースヒースを
「そんな事だから何時まで経っても嫁の来手が無いのです! 師匠は礼儀と細やかな配慮が足らないのです!」
「ぁ痛っ! いたたたっ! や、止めい! 何気に魔力を込めてつつくな!!」
イースヒースの悲鳴にも似た声を傍で聞きつつ、イリタビリスは他人事では無いな・・・と思ってしまう。
身内の中でプリームスを呼び捨てにするのは彼女しか居らず、一番の古参で忠臣であるスキエンティアでさえ態度は別として、言い様には礼節を欠かないのだ。
そんな師弟の笑劇を余所に、プリームスはシュネイを見据えて言った。
「シュネイ・・・私が次元断絶を越えて以来だな。壮健だったか?」
シュネイはプリームスの前に跪き答えた。
「はい。必ずお戻りに為られると思い、ご帰還に際しての準備をしておりました。また消耗しない様に己の行動も律していましたので問題有りません」
シュネイの態度で周囲に緊張が走り、一同の佇まいを引き締める。
「それは寿命で直ぐには死なないと言う事だな?」
辛辣とまでは言わないが、その率直なプリームスの言葉に一同は騒然とする。
だが言われた当人は特に気にした風も無く、あっさりと頷き言った。
「多少の魔力と体力の衰えは感じますが、今日明日いきなり他界する事はありません。そうですね・・・この感覚ですと大人しくしていれば、あと半年は大丈夫かと思います」
何とも他人事の様な物言いに、周囲の身内達は驚きを通り越して唖然とするばかりである。
「そうか・・・安心したぞ。では私の体調が回復次第、魔神王の英知を使ってシュネイの延命処置を行う。しかしこれに至ってはシュネイでは無く、私の方が作業に拘束されるからな・・・建国に関しての業務は皆に任せるぞ」
プリームスに告げられ、
それから直ぐにスキアンティアが、プリームスへ忠臣らしく進言した。
「プリームス様、建国に当たっての業務や周辺諸国への根回しは我々が行いましょう。ですが縁が深いリヒトゲーニウスへは、プリームス様が直接赴かれた方が良いかと」
面倒な事ではあるが、これに対しては同意見であった。
プリームスはリヒトゲーニウス国王エビエニスと友人の間柄なのだ。
しかもその証として、
その王友のプリームスが国を立ち上げるに、エビエニスへ一言あって然るべきなのだ。
でなければ義理を欠くと言うものである。
「そうだな・・・エビエニス国王に私が直接会うべきだな。その時にでも国家承認を正式に取り付けよう」
プリームスの言う国家承認とは、新たな国の樹立を認め、その支持と支援をする事を意味する。
また承認する利点は、その新興国にいち早く政治的、経済的な国交を結べる事にある。
これは国としての付加価値や、未来の伸び代を鑑みて"唾をつける"行為と言えた。
「確実に"承認したがる"でしょうね。何しろ人類では太刀打ち出来ない魔神の軍勢と戦ってきた一族なのですから。その軍事力は、味方にするなら魅力的な筈です」
などと少し下世話な言い様をするスキアンティア。
「おいおい・・・エビエニス国王は打算的な人物では無いと思うぞ。恐らくは宰相の方がそう考えるだろうよ」
少し咎めるようにプリームスは言った。
そんな2人のやり取りを聞いていたインシオンが、おずおずと割って入るように進言する。
「御二方・・・根本的な問題を忘れておりますよ」
インシオンに言われるとは相当に重要な事に違いなく、プリームスは不安になって聞き返えす。
「根本的? 何か大事な事か?」
他の身内達も失念している事が何か気になって、固唾を飲みインシオンの答えを待った。
「我らが国の名称ですよ・・・」
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