第338話・願いと裏腹な行ない

純白の着物で身を包み、金の髪飾りを付けたプリームスを見て、アグノスとイリタビリスは呆然としてしまう。

その神々しい美しさに見惚れてしまったからだ。



プリームスが部屋から出ると何時の間にかロンヒが待っていて、一振りの剣をプリームスへ手渡す。

「これは我が一族の国宝であり神器級の武器でもあります。本来、王は魔術師ですので儀礼用にしか出番が無かったのですが・・・プリームス様なら十二分に実戦でも使って頂けるかと」



そうロンヒに説明され、プリームスは鞘から剣を少し抜き刀身を確認する。

刀身は透き通っており、本当に金属なのかと疑ってしまう美しい剣であった。

『うむむ・・・ウズウズするが・・・』

正直、解析アナライズ魔法を使ってでも調べたかったが、何となく不躾に思い今は止めておく事にする。



「名は見た目の由来から硝子の剣と言います。しかし稀有な金属で出来ている為、名とは裏腹に決して砕ける事なく非常にしなやかです」

更にそう説明するロンヒだったが、その間プリームスへ視線を向ける事無く少し俯いたままだ。



不思議に思い尋ねるプリームス。

「どうしたのだ? 具合でも悪いのかね?」



するとロンヒは顔を赤らめて少し俯いたまま答えた。

「いえ・・・申し訳ありません。プリームス様は、その・・・失礼ながら大変見目麗しく在らせまして、直視出来ずにいたのです・・・」


ロンヒの言い様に呼応して、イリタビリスが割って入って来る。

「でしょ! プリームスが綺麗過ぎて、ずっと見ていたいけど見れないって言うか・・・」



苦笑するロンヒ。

「・・・・・」


そのロンヒの様子を見て、イリタビリスは自身がやらかした事に気付き、

「あっ! え~と・・・プリームス様が美し過ぎて神々しく感じ、見つめるのを憚ってしまいますわ・・・ウフフ」

と慌てて言い直した。

身内以外の人間が居るのに、調子に乗って”余所行き”の言葉を失念していたからだ。



これにはアグノスとプリームスも可笑しくて笑ってしまった。


またロンヒも苦笑すると、柔和な口調でイリタビリスへ告げる。

「いつも通りで宜しいのですよイリタビリス様。今後、小官が傍に控える事も多いですし、それでは身が持たないかと」



「え・・・じゃぁ、お言葉に甘えて・・・って、 あたしに敬称は必要ないですよ!」

まさか様付けで呼ばれるとは思わず、恐縮するイリタビリス。



しかしロンヒは引き下がらず、

「プリームス様は王に成られる御方でです。そしてアグノス様とイリタビリス様はその身内の方々なのですよ・・・ならば敬称を付け御呼びするのが当然と言うものです」

と言い少し思考する様子を見せた後、言葉を続けた。

「あぁ・・・忘失しておりました。お二方は姫とお呼びした方が良いのでしょうね・・・」



アグノスは姫と呼ばれる事に慣れている為、抵抗は無い。

だが一介の闘士でしかないイリタビリスとしては、恐縮する以前にむず痒くなってしまうのだった。

「それは勘弁して下さい・・・もう様付けでいいですから!」



真面目に言っているのか、それとも冗談を含んでいるのか・・・どちらにしろイリタビリスを手玉に取っている様なロンヒ。

『流石、年の功・・・役者が違うな』

プリームスはそう内心でほくそ笑む。


何しろロンヒは魔神戦争発端時から今まで、オリゴロゴスの間者として行政府に入り込んでいたのだ。

しかもモナクーシアへ近付く事が出来る、魔法騎士団の団長として・・・。

そう考えると100年もの間、機会を窺い続けた根気としたたかさに、プリームスは感嘆を禁じ得なかった。


そして、こうも思うのだ・・・また優秀な者達が自分の元に集い始めた・・・と。



プリームスとしては多少大所帯でも、小じんまりとした”一軒家”が望ましい。

決して”城”や、して”国”など欲しい訳が無い。

なのに実際は真逆に、大きくなるばかり。


『私は・・・敬愛する身内かぞくと共に、ひっそりと暮らしたいだけなのだがな・・・』

そう内心でぼやくプリームスだが、矛盾した自身の行動を思い出し自嘲するのだった。







 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※







ロンヒに先導され、イリタビリスとアグノスを従えたプリームスは、本殿の正面出入口を出た場所にやって来ていた。

丁度そこは拝殿の裏辺りになり、100m四方は有りそうな巨大な敷地になっている。


また足元は全て滑り止め加工が施された花崗岩の石畳が敷き詰められていて、何か大勢で行う催しや儀式の場だと容易に想像させた。



そしてプリームスの目の前には仮設の壇上があり、更にその先には数千人に及ぶ人々が集まっていた。

彼等はこの隔絶された地下世界で、100年もの歳月を生き抜いた守り人一族なのだった。


中には明らかに10代の者や子供もチラホラと見受けられ、プリームスをホッとさせる。

『出生率が下がっていると聞いていたが、その血筋を絶やさずに繋いで来れたのだな・・・』

それはこの一族が絶えてしまう前に、救援が間に合った事への安堵であった。



「プリームス様、皆、新たな王へ拝顔出来る事を心待ちにしております。どうぞ壇上へ上がられ、その神々しいお姿をお見せ下さい・・・」

ロンヒが恭しく手を差し出し、プリームスへ告げた。



壇上のすぐ傍にはテユーミアが立っており、

「前王シュネイ様から王権を譲渡される経緯を伝えてあります。後はお披露目と口上だけですよ」

と少し楽しそうにプリームスへ小声で言う。



プリームスは壇上へ向かい、途中テユーミアの胸を軽く拳で小突いた。

「他人事だと思い浮かれおって・・・。まぁ良い、面倒な事は粗方お前達に丸投げする故、覚えておれよ」



そうプリームスに囁かれ、何故か楽しそうに首を垂れるテユーミア。



ここまで来たなら諦める他無く、壇上へ上がったプリームスは意を決して民を見据えた。

それから悟られぬよう深呼吸すると、良く通る声で言った。

「私がシュネイより王権を譲渡されたプリームスだ。皆、必ず私の手で地上へ送り届けて見せよう。その後は私の元に来るも由、リヒトゲーニウス王国へ帰化するのも由。他に進みたい人生みちがあるなら、尊重し私が力を貸そう・・・以上だ」



淡々と、そして短い演説に意表突かれたのか、数千人に及ぶ目に前の民は唖然としてしまう。

否・・・それだけでは無い、皆、プリームスの美しさに目を奪われ、唖然ではなく呆然としいたのだった。



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