第322話・テユーミアとイリタビリス

テユーミアはイリタビリスの案内で都市部の外壁門までやって来ると、門の見張りが声を掛ける間も無く頑強な門を蹴破っていた。


これにはイリタビリスも驚愕して、開いた口が塞がらない。



「さぁ行きましょうか・・・イリタビリス」

そう笑顔で言うと、早々に壊れた門を潜りテユーミアは街の中に侵入を果たす。



「え、あ・・・はい!」

我に返ったイリタビリスもその後を追うが、事がそう円滑に進む筈も無い。

外壁門の警備と、外壁を周回警備している兵が集まって来たのだ。



数にして10名程度だが、騎士と闘士が半々。

ロンヒまでは無いにしろ、1人1人が中級魔神を相手出来る強さは有るように思えた。

しかも騎士の方は、ロンヒが見せた魔力の剣が使える筈で非常に危険だ。



それをテユーミアへ伝えようとしたイリタビリスだが、出遅れてしまう。

騎士達は奥の手である魔力の剣を一斉に発動し、テユーミアを取り囲んだのである。

強固な門を一撃で蹴破ったテユーミアを、魔神以上に警戒したのは明白であった。



急ぎイリタビリスが加勢に入ろうとするが、テユーミアの正面に立った2人の騎士の方が先に動く。

そして余程警戒したのか魔力の剣を振り上げ、2人同時に斬りかかった。


『ええぇ! 女性1人に大の男が2人がかりなんて・・・』

全く持って騎士らしからぬ振る舞いの敵に、驚いてしまうイリタビリス。



だが次の瞬間、更に驚愕する羽目になる。



振り下ろされた2本の魔力の剣を、テユーミアは素手で受け止めたのだ。

これには受け止められた騎士2人以外も、全員が驚愕し硬直してしまう。



その一瞬の隙をテユーミアは見逃さない。



掴んでいた魔力の剣を引き寄せ騎士の体勢を崩すと、驚異の速度で騎士2人の顎を拳で打ち抜いた。

すると脳を揺らされたのか、2人は昏倒するようにその場へ崩れ落ちたのだった。



仲間を倒された事で我に返ったのか、今度は残りの騎士3人が一斉にテユーミアへ襲いかかる。

2人では対処されたが、3人なら腕が1本足らずテユーミアに攻撃が当たると考えたのだろう。



この時イリタビリスはテユーミアへ加勢しようと駆け出すが、5人の闘士に行手を阻まれていた。

「くっ!」

加勢に行けない事に苛立ちを感じるイリタビリスだが、自身も5人の闘士を相手せねばならず焦り始める。



しかし、そんな全てが杞憂であるかの如く、再びイリタビリスは驚愕する事となる。



腕が1本足らぬなら足を使えば良いと言わんばかりに、テユーミアは3本目の魔力の剣を足の裏で受け止めたのだ。


もうここまで来ると驚愕を越えてイリタビリスは呆れた。

その反応速度、的確な間と受け止める場所・・・最早、手足だけでなく口でも攻撃を受け止めてしまうのではないかと思う程だ。

つまり、それ程までにテユーミアの動きは人間離れしており、イリタビリスの知る武術、体術の常識を遥かに超えていた。



そしてテユーミアの身体が一瞬ブレた様に見える。

動きが早すぎて網膜に残像が残ったのだ。



その刹那、手で魔力の剣を受け止められていた2人の騎士は、後方へもんどりを打って5m以上も吹っ飛んで行った。

更に足裏で魔力の剣を受け止められていた騎士は、巧みに受け流され、刃を地面に衝突させる。

それは大きく地面をえぐった。



魔法騎士達が使った魔力の剣は、人を容易に切断する殺傷能力があり、決して見掛け倒しでは無かったのだ。

また、それをいとも簡単に素手や足裏で受け止めるテユーミアは、イリタビリスの目に超絶者然として映るのであった。



周囲が驚きで呆然としている内に、地面へ刃を突き立ててしまった魔法騎士は、アッサリとテユーミアに蹴り飛ばされ他の騎士と同じ運命を辿る。



感嘆を禁じ得ないイリタビリスではあったが、直ぐに我に返り、行く手を阻んでいた闘士より一早く行動を起こす。

こうなると結果は火を見るよりも明らか。

5人の闘士達はイリタビリスに警戒する余り、後方から迫るテユーミアに一瞬で殴られ、そして蹴り飛ばされて昏倒してしまうのだった。



時間にして2分程度の出来事で、正に一瞬の攻防・・・否、一瞬の一方的な攻撃に終わった。




「テユーミアさん・・・流石プリームスの・・・いえ、プリームス様の身内だけの事はありますね! 感嘆と称賛を禁じ得ません!」

と余所行きの口調でイリタビリスはテユーミアへ告げた。



テユーミアは微笑み返し言った。

「何を言っているの・・・イリタビリス、貴女もプリームス様の身内の一人なのよ。それに無理に畏まって話す事は無いわ。自然に振舞いなさい」



そうは言われても自分より強いテユーミアへ、タメ口で話せる訳も無く更に畏まってしまうイリタビリス。

「い、いえ・・・テユーミアさん、そんな・・・」



少し困り顔で溜息をつくと、テユーミアはイリタビリスを抱き寄せて優しく告げる。

「まぁ追々慣れていくと良いわ。それで、プリームス様とは敬称無しで呼び合ってるのよね? プリームス様がそれをお許しになっているのなら、身内が傍に居ても其れで良いと思うわよ・・・でもそれ以外は状況を考えてね」



戦闘の様子は荒々しく、力任せと勘に頼っているように見えるテユーミアだが、こうして抱き締められて話し掛けられると随分と違った印象を受ける。

何か大きくて温かく、優しさに包まれるような・・・それはプリームスにも感じた母親の様な印象であった。



何時もの軽快で活発な17歳の美少女は何処へやら・・・。

イリタビリスは、すっかり絆されテユーミアに懐いてしまった。

「あ、あのぅ・・・時々こうやって抱きしめて貰えませんか?」



自他共に認める美少女愛好家のテユーミア。

上目遣いでそう告げるイリタビリスに、その胸が高鳴らない筈が無かった。

「あ~ん! なんて可愛らしい娘なんでしょう~! 良いわよ! 何時でも幾らでも抱きしめてあげるから、その時は私の元にいらっしゃい」

などと言い出し、感極まってテユーミアはイリタビリスを抱き”締めあげて”しまう。



これには健康優良児で武闘派のイリタビリスでも、只で済む訳も無く・・・まるで締め技が決まったが如くグッタリになる。



「あぁぁあぁ!! またやってしまいました!! ごめんなさいイリタビリス~!!」

と言いつつも自覚症状が無いのか、テユーミアはイリタビリスをガクガクと揺らす。


この後、イリタビリスの体調が回復するまで30分の時間を有したのは、語るまでも無いだろう・・・。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る